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突然僕は、何も分からなくなってしまった。
まるで、とんでもない熱病に襲われて、一瞬で気を失ったかのような。
だけど、ついには僕も目を覚ます。
そして気が付いたのは、自分がもはや潜水服の中にはいないということだった。
水圧に耐えるため、サイレンライダーの潜水服は金属で作られている。
頭の部分には、ガラス窓の付いた特大の植木鉢のようなヘルメット。
でも今の僕はそうではなく、裸ではないけれど、水着素材でできた通常服だけの姿で、コバルトの腕の中に抱きかかえられていたんだ。
「トルク大丈夫か? 生きているか? 何か言え」
僕が呼吸できるように、コバルトは海面に浮かび上がっている。
海と波と空と、見回すと遠くにスノーマンの姿をとらえることができた。
「コバルト、何が起こったんだい?」
珍しいことかもしれないが、コバルトは自嘲気味に笑った。
「偶然だが私たちは、ゴーストとスノーマンの中間にいたらしい。ゴーストが発射した魚雷のひき逃げにあったのだよ」
「ひき逃げって?」
「予告もなく、背後から突然現れた。私はかろうじて逃れたが、お前はドンくさく直撃を受けたのさ」
「ドンくさくないさ。直撃?」
「いや、ドンくさいね。ヘルメットがカボチャのように割れた。お前は生きているのが不思議なくらいさ」
「潜水服は?」
「もはや使用には堪えず、捨てるほかなかった」
「ふうう」
僕の口からは、ため息とも安心とも、自分でも区別のつかない息が漏れた。
「それでコバルト、魚雷はスノーマンに命中したのかい?」
「ケガの功名だな。お前にぶつかって魚雷の針路がずれ、スノーマンは命拾いさ」
「じゃあ海面にペイントを流さないと」
「それはそうだが、問題がある」
「どんな?」




