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「ねえコバルト、ゴーストというと、どうしてあんたはいつも機嫌が悪くなるんだい?」
尾の動きを止め、コバルトの大きな瞳が僕をジロリと見た。
「どうせ失敗して取り逃がすと分かっているものに、なぜ努力を傾ける必要がある?」
「本当にそう思うかい?」
「奴は並の潜水艦乗りではない。いつも海流を正しく読んでやがる。海水温の変化まで計算に入れているだろう。沈めるのは不可能さ」
「へえ、あんたが降参するなんて珍しいね」
「降参? 好きなように言うがいい。これは私の戦争ではない」
「僕の戦争ではあるよ」
コバルトは歯を見せた。
「ははは、下っぱ少尉の口からそんな言葉を聞くと笑えてくるな」
「だってさ、悔しいじゃないか…」
こうやって作戦が始まったが、釣り人が糸を垂れても、そうそう魚が掛かるわけではない。獲物のない日が続くことだってある。
それでも今回は司令部も本気なのか、僕とコバルトは何日か続けて作戦に駆り出された。
ゴーストによる被害がそれだけ深刻だったということでもある。
だが耳を澄ませつつ、足の遅い旧型艦の先導をすればいいだけの仕事だ。
僕もコバルトも、次第に気が抜けてきたのは仕方がない。
空振りが何日も続くと、
「なあトルク、これはこれで楽な仕事でいいな」
とコバルトも言い始めた。
あまりに暇なのだろう。ヒモのように長い海草を拾って、ついにコバルトは、あやとりを始めたほどだ。
毛糸と棒を与えたら、編み物だってしたかもしれない。




