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海中から見上げても、救命ボートとは意外に大きなものだ。
それでも20人近い水兵がひしめいていては、ボート上はツバメの巣のようと言えなくもない。船を失ったことで呆然としているのか、水兵たちの多くはまだ海面を見つめている。
そこへ波を突き破り、突然コバルトが顔を出したものだから、ずぶ濡れの水兵たちの間から声が上がった。
「コバルトだ…」
コバルトだけでなく、その肩にいる僕も、奇妙な具合に水兵たちの注目を集めてしまった。
コバルトが口を開いた。
「諸君おはよう。忘れものだぞ」
いつの間に救助していたのか、水兵を一人、コバルトは右手につかんでいるじゃないか。
僕はコバルトの左肩に乗っているから、これまで気が付かなかったのかもしれない。
コバルトはその水兵を、ドスンと乱暴に救命ボートの上に放り投げた。
救命胴衣はつけていても、ゼブラが沈む際の大波に巻き込まれ、水中を漂っていたのだろう。気を失っているので、まわりの水兵たちの介抱がすぐさま始まった。
水兵たちに聞こえないように、僕は少し小さな声を出した。
「ねえコバルト、人助けをするのなんか大嫌いだ、といつか言ってなかったかい?」
フン、とコバルトは鼻を鳴らした。
「コバルト」
と、水兵の一人が話しかけてきた。
「どうしたね?」
そうコバルトは答えたが、あまり親切そうな口ぶりではないのが気になった。僕と話す時には、もう少し楽しそうなのに。
水兵は続けた。
「なあコバルト、どこか友軍の近くまで、このボートを引っ張って行ってくれないか」
「お前たち、SOSを発信しなかったのか?」
「したさ。では救助の船はどこにいる?」




