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「方角はどっち?」
「ゼブラの艦長はバカか? 魚雷をかわした後も、前と同じ進路に戻って航行を続けたのか」
「どうして?」
「ゴーストの立場に立って考えてみろ。危険をおかし、大洋を単独航行している船がいる」
「それをゴーストは攻撃して外したんだよ」
「いかにも事情ありげな単独航行じゃないか。ならば同じ進路に戻るかもと、先回りして待ち伏せる値打ちはある。攻撃に都合のいい場所で、マンボウのようにプカプカ浮いていればいいのだから、これ以上簡単な仕事はない」
「魚雷は命中した?」
「ああ、今回はジャックポットだ」
コバルトの言葉の正しさは、僕もすぐに自分の体で感じることができた。
僕はもちろん、自分の乗っている船が魚雷攻撃を受けた経験はない。だけど想像するだけでゾッとする。
だがコバルトの感想は違ったようだ。
「ああ面倒くせえ、面倒くせえ」
「ゼブラは沈没する?」
「もう浸水が始まっている」
「もしかして、ゼブラの船倉に誰かサイレンが入っていた、ということはなかろうね?」
「それはあるまいよ。すべてのサイレンがストライキに参加していたのだから」
「ああ、そうか。怪我の功名ってやつだね」
「まあ、やれやれだ。これであの狭い船倉に押し込められることがなくなると思うと、せいせいするな」
「あれ知らなかったのかい? 老朽化したゼブラの代わりに新しい船が建造されていて、そろそろ造船所から出てくるころだよ」
「なんだと?」
「残念だったねえ」
「まあいい。お前は、船が沈没する瞬間を見たことがあるか? 面白いぞ、ついてこい」




