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「お前はなんて顔をしている。ハハハ…」
声を出して笑ったことで、コバルトの機嫌は直ったようだった。
「ねえコバルト、ゴーストはどうしてる? 魚雷は?」
何秒間か、コバルトは耳を澄ませた。
「魚雷はまだ発射管には入っていないようだ。時間はもう少しある」
コバルトが猛然と泳ぎ始めたので、僕は肩の上で座り直さなくてはならなかった。
「どうするんだい?」
「ここは海流があるから、照準完了まで時間がかかる。それはラッキーだが」
泳ぎながらコバルトが水面に顔を出したので、僕も水上の様子を見ることができた。
「ゼブラが見えた」
「あのボロ船が沈むところを私は見たかったのだがな」
あっという間に加速し、僕たちはゴーストを追い越してしまった。もちろん距離を取り、慎重に、う回しながら。
もう一度、水面に顔を出すと、今度はゼブラの姿を真正面に見ることができた。軍艦としては小柄で、例のごとく明るい灰色に塗られている。
「ゼブラには、どうやって警告するんだい?」
「手旗信号を送れ」
「よしきた」
僕は潜水服から飛び出してランドセルに取り付き、必要な道具を取り出した。その間にコバルトは浮上し、僕を背中の上に立たせた。
「用意できたよ」
「送れ」
『ゴーストが貴艦に照準を合わせつつあり。回避行動をとれ』
僕たちは進路の真正面にいるのだ。ゼブラのブリッジが気付かないはずがない。
ゼブラは、驚くほど素早く反応した。まるでグラリと身をよろめかせるようにして、右へ旋回を始めたんだ。
「よし、これで魚雷は外れた」とコバルトも評価した。
続いて、僕はもう一度、信号を送った。
『2分後、爆雷を左舷に5発投下。後は、しりに帆かけて逃げろ』
返信も確認せず、コバルトは再び潜水に移った。
「どうするんだい?」
「もうやれることはない。ゼブラが逃げおおせればよし、逃げられなければ、それはそれでよし」
「よかないよ」
「ほぼ逃げたようなものさ」
「ゴーストが魚雷をもう1発撃ってきたらどうするのさ?」
だがコバルトは自信に満ちている。
「撃ってはこない。いつも1発だけ撃って逃走に移るのが、ゴーストの強さの秘密だ。2撃、3撃を狙ってその場にとどまったりしないのだよ」




