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「ゴーストは何を攻撃しようとしてるんだい?」
「知らんな」
「そんな無責任な…」
「おっ、いま魚雷を発射したぞ」
「そうだね」とリリーもうなづく。
「間違いない。あの航跡の先にいる船乗りには、なりたくないな」
1、2分後、ゴーストがいたのは何キロメートル先なのか、魚雷の爆発音だけは僕の耳にも聞こえてきた。
僕が体をビクンと震わせるのを見て、
「お前にも聞こえたか」
とコバルトが言った。
「命中した?」
「ゴーストが外すはずはない。もう船内に浸水しつつあるし、竜骨が折り曲げられる悲鳴も聞こえる。きっと船体はバラバラになるだろうな」
「まさか見殺しにするのかい?」
僕は気色ばんだが、コバルトはわずかに首をかしげただけ。
理由が分からなくて、僕はリリーを振り返った。
「ねえトルク、あの船を助けに行って、コバルトと私の姿を人目にさらすのですか?」
「あっ」
そのことについては、僕も入隊当初から厳格な指示を受けていた。たとえ友軍の死命に関わろうとも、『ストロベリー部隊は実はサイレン部隊である』という秘密は絶対に守らなくてはならない。
この指示に違反することは許されない。
そんなことは僕も百も承知だったが、コバルトの言葉は冷たかった。
「行きたいのなら、お前が一人で行って、人助けなり、ゴースト撃沈なりしてくるのだな。私とリリーは手を出さないぞ」




