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何も言わず、コバルトはその輪の中央へと進んだ。そして僕を甲板の上に立たせた。
何年も海中にあって、サンゴに覆われた甲板がよくも腐食してしまわないものだが、僕は両足で立つことができた。
ここでコバルトが口を開いたんだ。
「これは合衆国海軍に対する、我々サイレンからの正式な要求である」
「なんだって?」
口をポカンと開け、僕はバカみたいな顔をしていたに違いない。
高い所からジロリと見下ろし、コバルトは続けた。
「戦闘に直接参加することはないとはいえ、今次戦争に対して我々がなしている貢献は、決して過小評価されるべきではない」
甲板の上にコバルトの声が響く。サイレンたちは黙って聞いている。
僕には訳が分からない。
「これ何?」
「しかるに海軍は何を考えているのか? 我々に対して、正当な感謝を払っていると言えるだろうか?」
ここでサイレンたちがそろって声を上げた。
「言えない! 断じて言えない」
やっと僕は気が付いた。僕は労働争議に巻き込まれていたのだ。
コバルトは続けた。
「合衆国海軍に対して、我々は待遇改善を要求する。もっとうまい食い物を寄こせ。もっと肉を食わせろ。豚肉ばかり出すな。牛肉を出せ」
「そうだそうだ」
「そのとおり」
サイレンたちは、思い思いに声を上げ始めた。
「クリスマスには七面鳥を食わせろ」
「バレンタインにはチョコレートを配れ」




