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「おやトルク、今日のお前は、えらく上機嫌じゃないか? そうか、私の話が聞きたいのだな」

 やっとパトロールの日がやって来た。

 僕とコバルトはいつものように海に出たが、リリーの姿はなかった。頭痛がするということで、珍しくも基地で休んでいたんだ。

「あのモービーディックはどうしたんだい? もう10日になるよ」

「お前がモリで私を刺し損ねた後のことか? 何も大したことではないさ」

「なぜロープを切ったんだい?」

「なぜ私が切ったと分かる?」

「断面の形からリリーが断定した。牙で咬み千切った跡だって」

 コバルトは僕をじろりと見た。

「まあな。潜水服も着ていないお前を巻き込んでも、いいことは何もない。リリーと一緒に船へ帰らせるしかなかった」

「それで?」

「モービーディックが潜水するものだから、私も引きずられるしかなかったのだよ」

「息の準備は間に合った?」

「それなりに予期していたからな。だがあの爆雷には助けられたよ。誰の発案だ?」

「リリーだよ」

「だろうな。お前の発案とは思えなかった。墓守なのだから、モービーディックが墓地から離れるはずはなかったのさ。私を背に乗せたまま戻っていった。あの時点で、奴と私は本当にゼブラの真下にいたのだよ」

「そこへ真上から爆雷の音が聞こえたんだね」

「いいタイミングだったよ。野生の鯨は爆雷になんぞ慣れていないからな。背中にいても、まるで全身に電気が流れたようにビクリとするのがわかった」

「それで?」

「一応は効果があったと言えるのだろうな。それまでは怒りで我を忘れていたのが、爆音で感情が吹き飛ばされ、我に返ったらしい」

「どんな顔してた?」

「『あらら、俺は何をしてたんだろう?』というところかな。こうなると気になるのは、尾びれの痛みだ」

「ははあ」

「奴が落ち着いたところを見計らって背中をポンポンと叩き、尾びれにまわって、モリを引き抜いてやったよ。針とタコ糸で縫って、治療もしてやった。今日から私のことをドクターと呼んでもいいぞ。リュウゼン香を見つけたのもこの時だ」

「真っ暗な深海で、よく裁縫ができたもんだね」

 僕がこう言うと、コバルトは表情を変えた。いかにもおかしそうにクスリと笑ったんだ。

「私は鯨だからな。暗闇でも超音波でものを見ることができる。超音波で見るお前は、本当に面白い顔をしているのだぞ」


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