37
この日から僕の生活は、大きく変わってしまった。
ストロベリー基地には10頭ばかりのサイレンがいて、それぞれが地下プールの中に居場所を与えられている。
コンクリート壁で仕切った部屋のようなもので、僕たちはストールと呼んでいたが、コバルトのストールは主を失ってしまったのだ。
コバルトは、暇つぶしによく本を読んでいた。
意外な読書家で、ストールに面して、床の乾いたプールサイドがあり、そこに上半身を預けて前かがみになり、あの尖った爪で器用にページをめくることができた。
空っぽのストールの前を通りかかるたびに、そこに積み上げてある何十冊もの本が目について仕方がなかった。
口が悪くて冗談もきついが、僕はコバルトの存在にそれほどなじんでいたのだ。
僕の新しい相棒は、自然にリリーが務めることになった。そして幸いにも、僕はまだ食われてはいない。
あるときリリーが気を回して、
「私と2人きりになるのはお嫌でしょうか? でも、コバルトと仲の良かったあなたを食べることなどできるものですか」
「仲がいいもんか、あんなジャジャ馬」
リリーは目を丸くし、
「あら知らなかったのですか?
あなたとコバルトの言い合いを、サイレンたちは夫婦ゲンカと呼んでいたのですよ…」
だけどコバルトが、これだけで終わるはずがない。




