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 僕とリリーがゼブラに帰りついたころには、引き揚げ作業は終わろうとしていた。

 濃い緑色の機体を目にして、あれが日本のジークかとは思ったけれど、コバルトの行方が気にかかって、眺めたり観察したりする余裕は僕にはなかった。

 それでも、ポタポタと水をたらすジークを水兵たちが甲板に乗せると、海域を離れる命令がすぐにブリッジから出た。

 もちろんコバルトは帰ってこない。

 コバルトの行方よりも、一刻も早くジークを本土の基地へ届けることのほうが重要なのだ。戦争とはそういうものだ。

 それは僕にも理解できる。文句を言う気はない。

 だけど、それと行動を起こさないこととは違う。リリーと一緒に船底のハッチから水槽に入ると、僕は階段を駆け上がっていった。

 ブリッジへたどり着くと、頭からつま先までずぶ濡れの僕を見て、士官たちが眉をひそめた。でも気にせず、僕は言った。

「艦長、これはリリーの発案なんですが」

「リリーがどうした? コバルトはどこへ行った?」

 僕の説明を聞いても、艦長は納得した顔をしなかった。

「それが何の役に立つのだね? その鯨にしてもコバルトにしても、もうこの近辺にはおらず、何キロもかなたかもしれないのだろう?」

「だから1発だけでいいんです。爆雷を発射して…」

「お前は、爆雷一発がいくらするか知っているのか?」

「知りません…」

 僕は引き下がりかけたが、艦長は何かを感じてくれたらしい。

「リリーの発案だと言ったな。海のことはサイレンの方がよく知っていよう。お前の発案なら説得力ゼロだが」

 艦長は振り返り、副長を呼び寄せた。副長は不思議そうな顔をしたが、艦長の命令を聞くと、すぐに実行してくれた。

「後方にできるだけ離して、爆雷を1発だけ発射せい。深度は…」

 艦長が見つめるので、僕は答えた。

「できるだけ深くで」

「タイマーを最長の120秒にセットしろ」

「アイアイサー」

 そして命令は実行された。

 火薬の力で爆雷は甲板上から発射され、海面に落ちてやがて120秒後、ボウンという爆音とともに海面が大きく盛り上がった。

 といっても船上から見ると、ただそれだけのものでしかない。

 そのまま泡が消え、波がおさまっても何も起きなかった。鯨は気配もなく、もちろんコバルトも帰ってこなかった。

 エンジンをふかし、煙突からは黒く濃い煙を吹いてゼブラは動き始めた。


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