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「1、2…」

 僕が指を動かし始めたのは、潜水艦とすれ違う距離があとたった100メートルというところ。

「…これは絶対に合衆国の船じゃないよ。日本海軍だ」

 魚雷発射管の数が合わないのだ。こんな海岸近くまで日本艦が侵入しているのなら、ただごとではない。

 僕はとっさに海図に視線を走らせた。見やすいように、海図はコバルトのほおにペタンと貼り付けてある。

 僕はそれを指で追いながら、 

「正確な現在位置はどこ?」

「知らん」

「あの潜水艦の正確な進行方向は?」

「知らん。調べるのはお前の仕事だ。道具は持っていよう?」

 潜水艦には窓はなく、外部で何が起こっているかを知る方法はない。

 だからこそソナーを使うのだが、泳ぐときにもサイレンはほとんど音を立てない。僕とコバルトが追跡していることに潜水艦が気付く可能性は非常に小さかった。

 スピードを落とし、潜水艦のあとをついてゆくのだから、まるでコバンザメになったような気分だ。

 こうまで近いと、ゴウゴウというモーター音が、水を通して直接、僕の鼓膜にも響くほどだ。

「泳いでついて行くよりも、あいつの甲板に腰かけた方がラクチンじゃないかなあ」

 と僕が提案すると、コバルトはさらに呆れた顔をした。

「お前は本当によくストロベリー校に入学できたな。感心するよ」

「なぜ?」

「あの潜水艦をよく見ろ。甲板に突き出している長い棒は何だ? 釣りざおか? ソナーだぞ。話し声どころか、お前の息の音まで聞かれてしまうぞ」

「じゃあどうする?」

「真後ろをつけてゆくのさ。自分のスクリューが雑音になって、ソナーも真後ろだけは聞くことができないからな」

 だがこの後は結局、何も起きなかった。

 追跡されているとも知らず潜水艦は航行を続けたが、それ以上は海岸に接近することもなく、やがてゆっくりと進路を変え、外海へと鼻を向けた。

 そして数時間後には領海を出ていったのだ。

 結局僕のした仕事も、潜水艦の形式、進路、速度といったデータを司令部へ報告するだけに終わった。

 いくら軍隊といっても、平時とはそんなものさ。訓練とパトロール以外、兵隊にやることはない。

 だけど戦争は、足音も立てずに忍び寄る。


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