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「リリーのやつ、2発目の弾丸なんか持っていないんだ」

 僕の思いが伝染したのだろう。なぜかこの時、リリーが顔を上げた。

 そうです、もちろん私は2発目なんざ持ってませんよ、とでも言うようにニヤリと笑ったんだ。僕の感じた絶望が想像できるかい?

 次の瞬間、リリーは尾をフル回転させ、水面に上半身を突き出した。そして表情を消した。

「黒と白のクジラ野郎、食えるものなら私を食ってみな」

 とリリーは言った。

 シャチが言葉を理解するとは僕も思わない。だがこの次に起こったことは、そう考えないと理解不能かもしれない。

 僕を見捨て、リリーを見すえて、シャチが大きく口を開いたのだ。尖った歯がずらりと並び、いかにも毎朝の歯磨きが面倒くさそうな口だ。

 一方で、どういう体の動きなのか、リリーはまだ上半身を水上に保っていた。まるで映画で見る日本のサムライのようにスキがなく、上半身は波の上に微動もしない。

 しかも銃はと言えば、リリーの手の中で上下逆さまにされ、刀のように垂直に持たれている。

 シャチが動いた。

 その瞬間には波としぶきが大きく上がり、僕の目に見えたのは、ただ銃身がグニャリと折れ曲がったということだけだった。

 しかし、何もないのに銃身だけが曲がるはずはない。やがてシャチの口と鼻から血が噴き出すにつれ、やっと僕も意味を理解することができた。

 銃身で頭蓋骨をたたき割られ、シャチは即死していた。尾びれまで含め、その体はもはやピクリともしないのだ。

「ふん」

 ため息をつき、用のないおもちゃであるかのように、リリーは銃をポンと投げ捨てた。

 しかも、リリーがしたことはそれだけじゃない。シャチの傷口に手をねじ込み、肉塊を大きくちぎり取ったんだ。子供の頭ほどの大きさがある。

 同じようにもう一つ取り出し、肉塊は2つになった。

「あんたも食うだろう?」

 一つを自分の口の中に入れつつ、リリーはコバルトの前に差し出した。

「食わいでか。抜けた毛の仇うちだ」

 いそいそと手を伸ばして、コバルトは受け取った。どうやら髪の毛の話は本当に切実であるらしい。


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