15
言われたとおり肩に乗って、僕は波の上にヘルメットを突き出してみようとした。もうすっかり夜は明けている。
「夜明けと同時に、日本は艦載機の離陸を始めやがった。見たこともない規模の攻撃部隊だぞ」
コバルトの言う通り、空母から離陸した日本の戦闘機が何十と、すでに空を埋め尽くしつつある。
空母は風上へ向けて全力で走り、艦載機たちはエンジンを響かせ、ツバメの子のように甲板を離れてゆくのだ。
「何機いるのかな?」
僕がつぶやくと、いつの間にかリリーも並んで空を見上げていた。
「空母は6隻だから、少なく見積もっても300機。迎え撃つ合衆国が日曜の朝とあっては、どうしても気がゆるんでいるでしょう。きっと忘れられない日曜となるでしょうね」
「では行くぞ」とコバルトが言うと、リリーはジロリとにらみ返した。
「あんたの命令など聞く義務はないが、今回だけは仕方がないかも…。トルクさえいなければ深海へもぐって、どんな敵艦隊でもアッという間にまいてしまうものを」
「ではリリー、あんたはついてこないのか?」
「ついて行くさ。幸い日本船団は風上へ向かって全速前進中。私たちは風下へと向かいましょうぞ」
「とりあえず目的地は三日月島としよう。よいな?」
「三日月島って何だい?」僕には分らなかった。
「海図を見ろ。このあたりで唯一住人のいる島だ」
「そこで何をするんだい?」
「三日月島には灯台がある。ということは、無線機もあるということじゃないか」
「それはそうだけど…」
「ありがたいのは、三日月島は合衆国海軍が設置した灯台だということさ。働いているのはみな海軍軍人。ならば?」
僕は少しの間考えたのだが、
「わかんないや」
すると、コバルトはリリーと顔を見合わせた。
「私の苦労が分かるかね? リリー」
「人間のガキなど皆同じさ。私のトーマスにも大きな違いはなかったね…。ねえトルク」
リリーは僕に話しかけた。
「…灯台職員が海軍軍人であるということはつまり、海軍規則に従うべき人々であるということです。海軍規則において、ストロベリー部隊はどういう扱いを受けています?」
「ああ、そうか」
ここまで言われて、僕にもやっと意味が分かった。




