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どのくらいの時間が過ぎたのか、気が付くと僕はコバルトの腕の中にいた。
潜水服は着ておらず、コバルトは僕を肩にかついでいる。
波を蹴立てて、かなりの速度で前進しつつあり、背後に目を凝らしても、四角環礁はもう見えなかった。
コバルトの声が聞こえた。独り言を言っているらしい。
「……まったく無茶をしたものだが、お前らしいと言えば言えるのか」
コバルトに独り言を言う癖があるなんて、僕は全く知らなかった。
体を動かすどころか息までつめて、僕は聞き耳を立てた。
「お前も頼りなく見えて、男らしいところがあるのか……。しかも今回、稚拙な方法ではあるが、私が命を助けられたことに間違いはない……」
ゲホッ。
ここで運悪く、僕の口から咳が出てしまった。
もちろんすぐにコバルトに気づかれた。
首を曲げ、僕をジロリと見た。
「お前は、いつから寝たふりを続けていた?」
「5分ぐらい」
「盗み聞き屋め、すべて聞いていたのか?」
「聞いたよ」
「いや、聞いていないね」
「どうして? ちょっと待ってよ。ゴーストはどこだい?」
「ホットドッグを沈めて、いい気分で立ち去っただろうよ。もう一隻には命中しなかったようだが」
「いじわる」
コバルトはクスリと笑った。
「意地悪どころか、私を死神と呼んだのはお前ではないか」
「ホットドッグのこと、問題にならないかな?」
「気になるのか?」
「うん」
「ついさっきのことだが、大型飛行艇が南下するのを見た。高度を下げて着陸態勢に入っていたから、四角環礁へ降りたのだろう。救助隊だな」
「へえ」
「ホットドッグの連中も、沈没ギリギリでSOSの発信には成功したらしい」
「それはいいけど、ツンドラ提督が文句をつけてこないかなあ」
するとコバルトは、フンと鼻で笑い、
「奴にそんな暇はない。自分勝手に立案した計画で潜水艦1隻を喪失したんだ。言い訳を考えるのに忙しくて、ストロベリーにはクリスマスカード一枚送ってこないさ」
「だったらいいけど……」
僕はまだ半信半疑。
だがいつもの通り、結局コバルトは正しかった。
(つづく)