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「連中の反応はどうだ?」
サンゴの影に身を隠しているコバルトには、ホットドッグの姿が見えないのだろう。
僕はのんびりと答えた。
「何人か降りてきたよ。司令塔から出て集まった。甲板砲のところ。聞こえないけど、一人が何かを命令してる」
甲板砲というのは、文字通り潜水艦の甲板に設置してあって、普通の大砲と大差ない。パイプのような砲身があって、上を向いたり下を向いたりする。
コバルトの声が、どこか不安げになった。
「連中は、手に何かを持っていないか?」
「へえ、見えないのに、よく分かるね。円筒形の物をかかえてる。2つか3つ」
「バカ、それは砲弾だ。奴らは甲板砲を使うつもりだ」
コバルトの言う通りだった。すぐに砲撃が始まった。
もちろん攻撃目標は僕だ。
ドンという破裂音。同時に砲口から白い煙が上がる。
「あんたがツンドラの名前なんか出すからだよ!」
「知るか。送信したのはお前だ」
でも僕はそれ以上言い返さなかった。
というよりも、できなかったんだ。
信号灯をかかえて地面を走り、逃げるネズミのようにジャンプしなくてはならなかった。
一発目の砲弾は何十メートルか離れた場所に命中し、サンゴのカケラをはじき飛ばしただけだったが、僕の神経を吹っ飛ばすには充分だった。
「もうやだ」
自分でも驚いたが、コバルトの背中に飛び乗ると、すぐにそういうセリフが出た。
「だから言ったのだよ」
とコバルトの訳知り風な声が聞こえたが、
「あんたは何も言ってないよ! 今すぐ逃げないと」
コバルトにも異論はなかったようだ。尾を最大限に動かし、水を切り始めている。
「なあ、お人よし。この期に及んでも、まだホットドッグを助けてやるべきだとは、まさかお前でも言うまいな?」
「どうして?」
「いま聞こえ始めた別の音がある。ゴーストが魚雷発射管に注水したようだ」
「なんだって?」
「魚雷発射の準備完了。ヨーソロという感じだな」
「それじゃあまずいよ」
「ああ、まずいまずい。アメリカ海軍はまた一隻の潜水艦を失うのさ」
「だけど……」
「心配するな。この海は浅い。まともな艦長なら全速前進、船体をサンゴに座礁させることを考える。誰一人おぼれはしないさ」
「だったらいいけど」
この頃には、コバルトの尾は最高速度に達していた。砲撃音も遠くなりつつある。




