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「なあトルク、ホットドッグがこの往復を何回か繰り返したとする。するとツンドラは、海軍上層部へ上機嫌で報告できるではないか。『潜水艦を用い、パールハーバーへの接近と離脱に複数回成功しました。しかるにストロベリーはそれを妨害するどころか、ただ1度の探知すらできなかったのであります』」
そのセリフの続きは僕が引き継いだ。
「それゆえストロベリーは無用の長物。速やかな廃止を進言いたします」
「そんなところだろうな」
ヘルメットの中で、僕は大きなため息をついた。
「面倒くさい奴だね」
「面倒くさい? 致命的さ。ストロベリーが廃止されてもお前は平気なのかね?」
「そりゃ困るよ」
「だから協力してもらいたい」
「どうするのさ?」
と僕は言ったものの、胸の中を不安が横切るのはどうしようもなかった。
コバルトが何かをしようとしているんだよ。平和的なことであるはずがない。
「だからトルク、今ここでペイント缶を使おうと思う」
ほらやっぱり。
もしもここでペイントを海にまけば、上空で旋回、待機している哨戒機が気付いて、すぐに駆逐艦を呼ぶだろう。
やって来た駆逐艦はホットドッグの頭上に、爆雷を雨のように降らせるだろう。
「絶対にダメだよ」
と僕は言ったが、コバルトは眉一つ動かさない。
「なぜ?」
「味方に同志撃ちをさせるわけじゃないか。絶対に許せないよ」
「ふん、そう言うと思った。では仕方がない。ペイントはゴーストのために取っておくか」
「ゴースト?」
「ホットドッグに乗っているのは、のんきな連中だな。ゴーストに追跡されていることに気づいていない」
「どこ?」
振り返り、僕は大急ぎで目をこらしたが、何も見えはしない。
「見えるような近距離ではないが、しっかりついて来ているよ」
「ホットドッグが発している音は、ソナーでもとらえがたいほど小さいはずなのに、どうやって気づいたのだろう?」
「どこかでたまたますれ違った時に、耳ざとく発見したのだろう。こんな奇妙な動きを繰り返すホットドッグだぞ。目立つと言えば目立つさ」
「だから?」
「ゴーストは、ホットドッグが浮上する瞬間を待っている。そして魚雷を一発」
「……」
「お前と私は手を汚さずとも、ツンドラの作戦は今回も失敗するのさ。ホットドッグは海の藻屑だ」
「潜水艦には80人ぐらい乗ってるんだよ!」
僕は思わず大きな声を出したが、コバルトはニンマリ笑っただけ。
「私を敵に回すとは、こういうことさ」
「死神だ」
「死神? いい言葉だな。するとお前は死神つかいか」




