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 コバルトはいつも変なことを言う。

 だけどこの日、コバルトの口から出た言葉は、その中でも最大級のヘンテコさだったかもしれない。

「なあトルク、お前には、人から嫌われるという才能があるのではないか?」

 それに答えるどころか、僕は口をポカンと開けてしまった。

「なんだって?」

「いったい誰と誰がお前のことを嫌っている? 考えてみよう」

 どう言い返したものか僕は頭を巡らせたが、唇ぐらいゆがめていたかもしれない。

 そして口を開く気になった。

「そうだコバルト。僕を嫌っているやつが、もしもいるとしたら、それはあんただよ」

「私?」

 コバルトは目を見開いた。

 余計に頭にくるが、その瞳は巨大で、例えようもないほど美しい。

「そう、あんたさ」

「いやすまぬ。そういう意味ではない。ほれ見ろ」

 マスクを外し、コバルトは口を見せた。人間の女と同じように、そこには滑らかな肌があり、唇は……。

 頭の中で僕は、コバルトの唇の美しさを形容する言葉を探そうとした。

 だがそれが見つかる前に、コバルトは行動を起こしてしまった。

 舌を伸ばし、僕のヘルメットをペロリと舐めたんだ。

「何するんだい!」

「おわびの印だ」

「おわび?」

「どうやら怒らせてしまったようなのでね」

「変なことしないでよ」

「もうしないさ。お前のヘルメットはまずいからな。金属とガラスの味がする」

 もう何を言っていいやら分からなくて、僕は口を閉じてしまった。

「なあトルク、まじめな話だ。お前を嫌っている者がいるだろう? 例えばボガート大佐はどうだ?」

「ボガート大佐? よせばいいのに、あくまでも人魚を目撃したと言い張るもんだから、最近は誰も相手にしなくて、遠巻きにされているらしいよ」

「そんなことになっているのか?」

「良くも悪くも自分を曲げない頑固者らしい」

 コバルトはしばらく考えていたが、

「だがトルク、たかだか大佐ふぜいに、このような大規模作戦の立案は不可能だろうよ」

「どういう作戦なんだい?」

「まず潜水艦を一隻用意する。それを往復させるのだが、始点はパールハーバーの湾口」

「終点は?」

「50キロ南の四角環礁さ。潜水艦は浮上せず、ずっと潜航したままで、この2点間をひたすら往復する」

「何のために?」

 僕はそう質問したが、答えを得るのは少し後になった。ちょうど情勢が変化したのだ。

 コバルトが悪戯っ子のような顔をした。

「ほらごらん。潜水艦が旋回を始めた。パールハーバーには入らず、あのまま180度Uターンする気だ」

「湾内には入らずに?」

 コバルトと同じように僕も黙って見つめたが、まったくその通りだった。

 潜水艦は左回り、つまり半時計方向にUターンを始めたじゃないか。

 その様子に迷いは見えず、いかにも艦長の号令一下で行動しているのが感じられる。


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