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 僕が着ている潜水服は金属製だから、通常のゴム製のものに比べれば深く潜ることができる。

 それでも限界は100メートルでしかない。

 たった100メートルと思うかもしれないが、その100メートルが実は大変で、どこの国の潜水艦だって、100メートル内外の深さまでしか潜ることができない。

 水圧というのは、それほどとんでもない物なんだ。

 そうやって僕とコバルトは深度100メートルに到達したのだけど、何をするのかと思っていたら、コバルトは動かなくなってしまった。

 今度こそ尾の動きを完全に止め、腕も半ば伸ばしたまま海流に身を任せ、目まで閉じてしまったんだ。

 まさか昼寝をするのではないだろうけど。

「コバルト、何をしてるんだい?」

 長い髪を体にまとわりつかせたまま、コバルトはチラリと僕に視線を走らせた。

「お前の祖父の言う『幽霊』とやらに心当たりがあるのだよ。その足音を探そうと思う」

「足音って?」

「私がなぜこの深度まで降りてきたと思う?」

「さあ?」

「海水というのは、実はどこでも温度が同じわけではない。暖かい水、冷たい水がある。それらが層をなしている」

「地層みたいに?」

 その通り、とコバルトはうなずき、

「お前と私は今、ちょうどその境目にいる。運よく今の季節なら、深度100メートルあたりにその境界があるのさ」

 コバルトが言うのは、こういうことだった。

 船であれ潜水艦であれ、水中を走る物体は音を出している。

 普通ならそういう音は、遠ざかると小さく、聞こえにくくなる。

 ところが水温の境目では音が反射し、まるでウサギのようにピョンピョンと反射して進むことがある。

 条件さえよければ、通常ならとても聞こえないような遠くの音でも感知できるのだそうだ。

「今からそれをやろうとしているのだよ」

「僕は何をするんだい?」

 コバルトはクスリと笑ったようだ。

「おとなしくいい子にしてろ」

 僕はライトのスイッチに手を伸ばした。

「寝ててもいいかい?」

「好きなように」

 僕の指は本当にスイッチを押し、あたりはインクのように真っ暗になった。


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