124(第9部 迷路)
「昨日まで、お祖父さんがまたパールハーバーに来てたんだよ」
と僕が報告しても、コバルトの返事はそっけなかった。
「そうかい」
「それが変なんだ。僕は司令部の建物に呼び出されたのだけど、すぐに小さな部屋へ通され、祖父と二人だけで話した」
「何の話をしたのだね?」
「コソコソと小声でね。本当は僕の耳に入れたいのではなくて、あんたに伝言があるということだった」
「私に?」
いつものようにコバルトの瞳が動いて、僕をジロリと見たが、そこに好奇心の色が見えたような気がする。
「伝言といっても短いよ。それがすんだら、『もう帰れ』ってさ。たったそれだけなら手紙でも書いてくれたらいいのにと言ったら、証拠を残さないために口頭で伝えるんだってさ」
「やれやれ、頼りない孫を持った提督も気の毒だな」
「なんで?」
「どういう伝言か知らんが、まだ内容に確証がないのだろう。そういう微妙な段階だからトルク、お前の耳に入れることはできないのさ」
「何の話をしてるんだい?」
尾の動きを止め、コバルトは僕の顔をまっすぐに見た。
それから手を伸ばし、僕のヘルメットをコツンと叩き、
「お前は口が軽いから、機密情報を教えるには不安があるということさ。それで提督は何と言った?」
まるっきり子ども扱いをされて僕は腹が立ったが、こんなところでヘソを曲げても意味がない。
ここは太平洋のど真ん中。ハワイ沖合20キロの海中だ。
おまけに水面下30メートルで、周囲数キロに人間は一人もいない。
こんな場所で感情を爆発させても仕方がない。
それでもせめて、僕は祖父の口マネをして、憂さを晴らすことにした。
「ああトルク、わしの口からはここまでしか言えぬ。しかし一言一句違えずにコバルトに伝えるのだ。コバルトなら、きっと正しく意味を理解してくれるだろう」
「それで伝言とは?」
「ええっとね……。ゴースト以外にも、もう一匹の幽霊が太平洋を泳いでいる。自分の耳ばかりを信用するな」
僕が口を閉じても、コバルトは何も言わなかった。返事がないんだ。
「コバルト?」
「伝言はそれだけか?」
「うん」
「まるでナゾナゾだな」
「意味が分かるかい?」
前を向き、コバルトはしばらく考えたようだ。
「分かるかもしれない。だが、結論を出す前に少しデータを集めよう」
「どんなデータさ?」
「分かったら教えるよ。潜航するから付き合え」
口を閉じて尾を動かし、コバルトはさらに深度を取り始めた。




