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「あの潜水艦のことはどうするんだい?」
2隻からの距離が十分に離れてから、僕は言った。
「どうしようもないさ。ペイントを流しても、夜間は哨戒機も飛んでいない」
「そうだね」
「今の木箱は持っているね」
「ランドセルの中に入れた」
「いい子だ」
でも、僕もコバルトも小箱の中身など気にならなかったし、こっそり開けてみようという話も出なかった。
基地へ帰りついて、そのまま中隊長に渡しただけだ。
もちろん事情は簡単な報告書にして提出したけれど、その後が大変だった。
ストロベリーの偉いさんたちが密かに招集され、会議が何回も開かれたらしい。
呼び出され、報告書に書いたのと同じ内容だけれど、僕もしゃべらされた。
だけど僕にだって、必要以上の詮索をしない常識は備わっているし、実際、中隊長に何か質問したりもしなかった。
質問しても、僕のような下っ端には何も教えてもらえなかっただろうし。
ところが忘れちゃいけない。僕の祖父は提督なんだ。
後になってからのことだが、例のごとくフフフと含み笑いをしながら話してくれた。
「これは軍事機密だから、誰にもしゃべるんじゃないぞ、トルク」
「うん」
「あの木箱の中身は書類で、防水紙で厳重にくるまれていた。万が一、濡れてもいいようにな」
「へえ」
「それがなんとパールハーバーの地図でな。しかも最新版だ。新しい対空砲台の位置までよく分かるやつだ」
「それはまずいね」
孫の前で手品を見せる老人のような顔で、祖父は笑った。
「だけどそれだけではない、ふふふ」
「なにが?」
祖父が言うには、ごく簡単にだが、地図にはストロベリー基地の位置まで書きこまれていたそうだ。
しかもカッコつきで、
『何をしている部署かは不明だが、警戒は非常に厳重で、近寄ることすらできない。あるいは別紙が参考資料になるかもしれない』
とまで書き添えられている。
別紙資料というのは新聞記事の切り抜きで、
「どんな記事?」と僕は尋ねた。
「ボガート大佐のアレさ。ハワイ近海でサイレンを目撃したとかいうやつだ」
「あああ……」
祖父の目の前で、僕は頭を抱えてしまった。




