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 コバルトの言葉は続いた。

「おや交渉決裂か。殴り合いが始まった。狭い船上で元気のいいことだ」

 もちろん僕には見ることはできなかったが、頭の中に風景が浮かぶような気がした。

 なんだか知らないが老人はブツを入手し、日本人がはるばる受け取りに来た。

 現金と引き換えに手渡すはずが、老人に欲が出たか、日本人がケチだったか。

 乱闘のおかげで、漁船はユラユラ揺れる。日本人はブツを取り上げようと、老人は渡すまいと……。

 そのうちに手が滑るんじゃないかなと思っていたら、本当にその通りになったのには自分でも驚いた。

 ポチャン。

 波を破って、それが上から落ちてきたのだ。

 コバルトの手がサッと素早く拾い、僕に押し付けてきた。

 僕は受け取ったが、両手で抱えるサイズの頑丈な木箱であるということ以上を観察する暇はなかった。

 目を凝らす前に聞こえてきた大きな音があるんだ。

「銃声だ」

 一発だけだが、殴り合いがとうとうそこまで発展したらしい。見えはしないのに、僕はヘルメットの中で見上げた。

「ジジイが撃たれたようだぞ」

 というコバルトの言葉と同時に、また落ちてきたものがある。

 さっきの木箱よりもはるかに大きく、形も材質も違う。

「おっと、これを拾う必要はないな」

 それがコバルトの判断だったし、僕も賛成したい。

 老人の死体は胸から血を流し、もはやピクリともしないのだ。水中を漂い始めた。

 いかにも漁師らしく、肌はよく日に焼けている。髪は短く刈っているが、年齢相応にすべて白い。

 いかにもこのあたりの漁村に住み、普段は漁で生活しているという感じ。

「死んでる?」僕はコバルトにささやいた。

「ドードー鳥のようにな」

 そんな言い回し、コバルトはどこで覚えたんだろう。

 漁船の上から荒々しい音が聞こえてきた。品物をひっくり返し、老人を射殺した日本兵が家探しをしているのだろう。

 木箱が海に落ちたことには気づいていないのかもしれない。

 僕に合図をし、コバルトはそっと漁船から離れた。


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