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その意味が分かった時、僕の鼻の中を暑い息が通り抜けていった。
「そういうことか」
コバルトの言う通り、漁船は他船と落ち合っていたんだ。
2隻は船体を並べていたが、漁船に比べて、相手ははるかに大きい。
しかも、ちゃんと鉄でできている。
「軍艦かな……?」
暗い海中で、しかも水面下から見上げているのだ。船の形を見極めるのは難しい。
正解はコバルトが教えてくれた。
「潜水艦だ。それも日本のな。あの漁師はスパイだぞ」
「スパイ?」
「どうした? 戦争をする国には珍しいことではないさ」
「でも……」
知らず知らず、僕の声は大きくなりかけていたようだ。
コバルトが人差し指を立て、僕のヘルメットの前にかざすのが、船上から漏れてくる明かりで見えた。
「……」
僕は口を閉じた。
「少しお待ち」
コバルトがささやいた。
見ているとコバルトは、漁船へとさらに近寄っていくようだ。
そして船底に肩を、いや耳をくっつけたんだ。
盗み聞きをするんだな、と僕も気がついた。
サイレンの聴覚は、ソナーよりもはるかに鋭い。それを聴診器のように直接くっつけるんだ。
漁船の上で話されている内容はすべて聞き取ることができるに違いない。
だけどもちろん、漁船の上に人がいればの話。
目玉だけで僕を振り返り、コバルトはごく小さな声を出した。
聞き取るためには、僕はヘルメットをコバルトの喉に押し付けなければならなかった。
「漁船上には二人いて、盛んに話をしている。一人はあのジジイだが、もう一人は潜水艦から降りてきたのだろう。こいつの英語はへたくそだ……。日本人だな」
こんな場所でランデブーして、何かを受け渡すのだろうか? それとも人間の身柄を受け取る?
僕の頭の中には、様々な疑問が浮かんでは消えた。
ところがコバルトは意外なことを言うのだ。
「やれやれ、仲間割れを始めたぞ。ジジイが言うには、入手に苦労したのだから、こんなはした金では割に合わんとさ」




