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 コバルトが次に何を思い、何をやりだすか、誰にも想像なんかつかない。

 ここまで何キロ海中を突っ走ってきたのか、予告もなくコバルトは振り返り、突然足を止めてしまったんだ。

「ああ面倒くせえ。泳ぐのにもあきた」

 もちろんボビーも急停止するが、奴にもコバルトの考えは読めないのだろう。

 もちろん僕にも分からない。

 にらみ合い。

 超ド級のシャチと海中でにらみ合うなんて、思い出すだけでゾッとするが、コバルトは平気な顔をしているんだ。

「なあトルク、ボビーを見逃してやってはダメか? 妊婦と分かると気が進まなくなってきた」

「報告書にはどう書くんだい?」

「何も書かなくてよいではないか。バレはしない」

 僕は敵と、チラリと視線を合わせた。

「僕はいいけど、ボビーはまだ怒ってるよ」

「そのことだが、ちょっと実験をしてみよう」

「実験って?」

「お前はまだモリを持っているね?」

「もちろん」

「それを片付けてごらん」

「バカな……」

 だけど、そのバカを実行することになってしまった。

 よく通って深みがあるコバルトの声には、まるで催眠術のような効果があるのかもしれない。

 もちろん、その話し方が自信に満ちているということもあるけれど……。

 半信半疑ながら手が動き、ネジ式になっているモリを解体してバラバラにしてゆくのを、自分の手のことなのに僕は呆然と眺めた。

 小さな部品に分けてランドセルの中に戻すのに、1分もかからなかったと思う。

「ごくろうさん」

「これからどうするんだい?」

「それを決めるのはボビーさ」

「どうして?」

「ごらん、戦意のないことが伝わったようだ。奴も牙を隠した。もはや超音波も来ない」

「本当に?」

「人間でもそうだが、何もなくても妊婦とは気が立っているものだよ」

「でもボビーは漁師を食べ損ねたよ」

「一食抜こうが二食抜こうが、野生動物は平気さ。気の毒に思うなら、お前が代わりに食われてやる手もある」

「そう言うと思った」

 僕はもう一度、コバルトの腕を蹴飛ばした。


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