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「コバルト、あんたも超音波出してる?」
「もちろん。意外なことに奴はメスだ」
「メス?」
「骨は超音波をよく反射するのだよ。あいつの腹の中には、小さな頭蓋骨が二つ見える。双子だ」
「まさか……。シャチのメスって、もっと小柄なんだよ」
「世界新記録クラスの巨大なメスということさ。動物学者に教えてやったら喜ぶぞ」
「そんな暇ないよ」
「もちろんないさ。ほら来やがった……」
コバルトの言う通りだった。
鯨の動きや泳法は、当たり前のことだが魚によく似ている。ただサイズが違うだけ。
ライトの光にボビーは牙をきらめかせたが、コバルトも黙って待ってはいない。
サッとかわし、コバルトは全速で泳ぎ始めたが、もちろんボビーもついてくる。
「ボビーのやつ、さっきの漁師じゃなくて、まさか僕を食べる気になったんじゃなかろうね?」
「お前ならどうするね? レストランへ行ったら、老いたチキンのステーキと、若鳥のステーキがメニューにあるとして」
泳ぐとき、特に高速を出す場合にはサイレンも両腕を必要としないので、体のわきにつけて邪魔にならないようにしている。
それが今日は、僕を守るためか両腕で包み込んでいるのだ。
「ねえコバルト、あんたって、言ってることとすることが全然矛盾してるよね」
ボビーとコバルトは泳ぎ続けた。もう何キロ進んだだろう。
「逃げ切れるかい?」
伝声管を通して、僕の声は心細そうに響いたかもしれない。
「どうだろうな? 私にとってお前は重荷だが、重荷ということなら、奴だって腹の中に2匹も抱えているのだよ」
「あんたの言い分、ときどきすごく腹が立つことがあるよ」
「そうかい? それはそうとメスと分かったことだし、ボビーと呼び続けるのはどうだろうな?」
「新しい名前を考えるのかい?」
「ああ決めた。やつのことはリリーと呼ぼう。怒った顔がそっくりだ」




