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なんとかする……。
たしかにコバルトは、自分の姿が老人に見られることのないように手を打ってくれた。
まず、水の抵抗を小さくするために潜水服ごと僕を胸に引き寄せたと思ったら、まるでロケットのようにピュッと加速したのだ。
サイレンの尾びれには、それだけの瞬発力がある。
牙を突き立てようとするボビーの鼻先から、老人をかっさらうことにコバルトは成功したんだ。
それだけではない。
コバルトは老人の片足をつかんでいたのだが、そのままビュンとムチのように振り回し、僕のヘルメットにぶつけたんだ。
老人の後頭部をだよ。
ゴン!
軽金属製とはいえ、それなりに分厚いヘルメットだ。老人は一瞬で失神してしまった。
もちろんボビーはおとなしくなどしていない。
コバルトの姿を見ても、ひるむ様子はないのだ。
それどころか……、
「ボビーのやつ、こっちへ牙を向けたよ」
この声が届いたのかどうなのか、コバルトは別の仕事に忙しそうだ。
尾びれを振り回してボビーをけん制しつつ、顔と腕を水面に出すんだ。
それから船の上へ向けて、老人を荷物のようにほうり投げた。
「コバルト、何をするんだい?」
「ボビーをどうにかする間、ジジイは邪魔になる。船の上でオネンネさせておくさ」




