111
「バカ、あほ、間抜け」
とうとうコバルトが僕に追いつき、ついさっきパイプを連結し、会話が復活したところだ。
僕の口をついてどんな言葉が飛び出しても、コバルトは平気な顔をしているんだ。
「お前が生きているのなら、私は何を言われてもいいさ」
「僕を殺すところだったんだから、少しは責任を感じてうろたえてよ」
コバルトは見回している。
「ここは、太古の海底火山の跡だな」
その言葉通り、僕はちょっとした岩山の頂上のようなところに横たわっていた。
海底へ向けて落ちてゆく途中に、ドスンと衝突して引っかかったんだ。
ライトを向けて見まわしても、びっくりするほど小さな頂上でしかない。
深度500メートルの海底にただ一カ所、まるでピラミッドのように上を向いて突き出しているんだ。なんという偶然だろう。
僕の心が読めたのか、コバルトが口を開いた。
「本当に偶然だな。10メートルずれていたら、お前はさらに下へ落ちていたはず」
僕を肩に乗せようとするのに身を任せながら、こんな言葉が口から出た。
「コバルト、なんか言うことはないのかい?」
「何を?」
「死ぬような目に合わせて申し訳ないとか、爪が滑ってすまないとか」
だがコバルトの表情は変わらない。
「お前がどう思っているかは知らぬが、確かに1度目は失敗したが、すぐに追いついて、2度目にはお前を捕まえるのに成功していたさ」
「その時には深度100メートルを越えてるんだよ」
「だが安全率というものがある。その潜水服も、深度100ですぐにつぶれるというものではない。150メートルか、もしかしたら200でも大丈夫さ」
「本当に?」
「お前には、死ぬ可能性はカケラもなかった。私を信用するがいい」
「でも……」
「トルク、水面へ戻りたいのかね? それとも、ずっとここにいたいのかね?」
「戻りたいよ」
僕が肩の上に身を落ち着けると、コバルトは尾を動かし、ゆっくりと岩山を離れた。
急速潜水にはコバルトなりに緊張し、神経と体力を使ったのだろう。この時の浮上は本当にゆっくりとしていた。
だから話をする余裕は充分ある。
「ねえコバルト、もしも僕が本当に死んでいたら、あんたはどうする?」
コバルトは少し間、答えなかった。尾を動かしつつ、考えていたのかもしれない。
「今も言ったように、ありそうもないことだが、もしそうなったら何もかも捨てて、深海へ帰ったかもしれないな」
「せめて墓ぐらい作ってよ」
「ふふ、覚えておこう。1000メートルの深海に埋めて、鯨の肋骨で墓標を作ってやる。イソギンチャクを花束にして供えよう」
「墓碑銘はなんて書くんだい?」
「そうだな……、『某月某日、戦闘とは直接関係のない海域において、味方の潜水艦に追突されて死す。R.I.P.』」
「あまりかっこよくないね。あんたの名前はコバルトではなくて、今日からはトラブルと呼んでやるからね」
「お好きなように」




