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「バカ、あほ、間抜け」

 とうとうコバルトが僕に追いつき、ついさっきパイプを連結し、会話が復活したところだ。

 僕の口をついてどんな言葉が飛び出しても、コバルトは平気な顔をしているんだ。

「お前が生きているのなら、私は何を言われてもいいさ」

「僕を殺すところだったんだから、少しは責任を感じてうろたえてよ」

 コバルトは見回している。

「ここは、太古の海底火山の跡だな」

 その言葉通り、僕はちょっとした岩山の頂上のようなところに横たわっていた。

 海底へ向けて落ちてゆく途中に、ドスンと衝突して引っかかったんだ。

 ライトを向けて見まわしても、びっくりするほど小さな頂上でしかない。

 深度500メートルの海底にただ一カ所、まるでピラミッドのように上を向いて突き出しているんだ。なんという偶然だろう。

 僕の心が読めたのか、コバルトが口を開いた。

「本当に偶然だな。10メートルずれていたら、お前はさらに下へ落ちていたはず」

 僕を肩に乗せようとするのに身を任せながら、こんな言葉が口から出た。

「コバルト、なんか言うことはないのかい?」

「何を?」

「死ぬような目に合わせて申し訳ないとか、爪が滑ってすまないとか」

 だがコバルトの表情は変わらない。

「お前がどう思っているかは知らぬが、確かに1度目は失敗したが、すぐに追いついて、2度目にはお前を捕まえるのに成功していたさ」

「その時には深度100メートルを越えてるんだよ」

「だが安全率というものがある。その潜水服も、深度100ですぐにつぶれるというものではない。150メートルか、もしかしたら200でも大丈夫さ」

「本当に?」

「お前には、死ぬ可能性はカケラもなかった。私を信用するがいい」

「でも……」

「トルク、水面へ戻りたいのかね? それとも、ずっとここにいたいのかね?」

「戻りたいよ」

 僕が肩の上に身を落ち着けると、コバルトは尾を動かし、ゆっくりと岩山を離れた。

 急速潜水にはコバルトなりに緊張し、神経と体力を使ったのだろう。この時の浮上は本当にゆっくりとしていた。

 だから話をする余裕は充分ある。

「ねえコバルト、もしも僕が本当に死んでいたら、あんたはどうする?」

 コバルトは少し間、答えなかった。尾を動かしつつ、考えていたのかもしれない。

「今も言ったように、ありそうもないことだが、もしそうなったら何もかも捨てて、深海へ帰ったかもしれないな」

「せめて墓ぐらい作ってよ」

「ふふ、覚えておこう。1000メートルの深海に埋めて、鯨の肋骨で墓標を作ってやる。イソギンチャクを花束にして供えよう」

「墓碑銘はなんて書くんだい?」

「そうだな……、『某月某日、戦闘とは直接関係のない海域において、味方の潜水艦に追突されて死す。R.I.P.』」

「あまりかっこよくないね。あんたの名前はコバルトではなくて、今日からはトラブルと呼んでやるからね」

「お好きなように」


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