表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/135

110


 ああコバルトよ。

 金髪碧眼の美しきサイレンよ。

 その瞳の輝きは、地上に例える物もない。

 その御身おんみが、どうしてこんな時にしくじりますかね?

「1、2、3!」

 号令とともに、コバルトはパイプを切り離した。そのためのレバーが存在する。

 パイプはヘビのように動き、アンカーの返し部分をスルリと抜けて自由になった。

 それだけならよろしい。

 同時に重力に引かれ、僕の体は潜水服ごと落下を始めていた。

 行き先は数百メートル下の海底。僕にとっては地獄と同じだ。

 潜水艦のへさきがどんどん遠くなり、深度が増すにつれ周囲は暗くなり、コバルトがとっさに反応して、下を向いて泳ぎ始めるのが目に入った。

 もちろんコバルトがフル加速、最高速度でもって潜行を試みていることは僕も疑わなかった。

 少しでも捕まえやすいように、僕はライトのスイッチを入れ、両腕を大きく伸ばしていた。

 コバルトはずんずん近づいてくる。その白い体は、あたりが暗くなってもよく目立つ。

 その背後を、われ関せずという様子で潜水艦が横切る。

 眼のすみで、僕は深度計を注視しないではいられなかった。

 針はどんどん回っていく。

 50なんか、アッという間に過ぎてしまった。

 80、90……。

 これが最初で最後のチャンスだ。

 コバルトが両腕を伸ばし、僕を胸に迎え入れようとするのは、似た構図を何かの宗教画で見たような気がする。

 肉食獣であるサイレンの爪は尖り、クギのように鋭い。

 その先が僕の潜水服に触れ、つかもうとした。

 カリッ。

 そこで爪が滑った。

「あっ」

 僕の落下が止まることはなく、コバルトは胸の中にただ水の塊を抱いただけで終わってしまった。

 僕は落ち続ける。もう深度は100を越えようとしている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ