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「仕方がない」
とコバルトが口を開いた。
「どうするんだい?」
「こうなったら、私とお前をつないでいるパイプを、いちど切り離すしかない」
僕が呼吸している空気は、潜水服の空気タンクの中にためられている。一時的にパイプを切り離しても問題はない。
「だけどそうしたら、僕は下へ落ちちゃうよ」
下というのはもちろん、海底のことだ。
このあたりの海は深く、深度100どころではない。
500メートルは軽くあって、落ちていった僕が生き延びる可能性はない。
いくら金属製でも潜水服は押しつぶされてペチャンコになり、中にいる僕はピザよりも薄くなる。
「私を信じろ、トルク。パイプを切り離し、お前は一旦落下するが、100メートル落ちる前に必ず捕まえてやる。安全深度よりも下までは行かせるものか」
「本当かい?」
「私がこれまでウソを言ったり、いい加減だったりしたことがあるか?」
僕は少し言葉を切った。そして答えた。
「……ある」
「まじめに答えろ。いいな? 1、2、3で切り離すぞ」
「深海まで超特急かい?」
「途中駅で止めてやるさ。いくぞ。1、2、3!」




