102 (第7部 ホープ号)
その新聞記事を読んで青くなったのは、僕だけではないと思う。
翌日のブリーフィングで、さっそく大隊長の口から指示が出た。
中隊長ではなく大隊長の口からというところで、ストロベリーがこの件をいかに重大視していたかが分かるじゃないか。
大隊長は全員の目の前で新聞紙を広げて見せたが、デカデカなんてもんじゃない。
極太の巨大な活字を使って第一面に、
『真珠湾近海で人魚が目撃される!』
とある。
「ああもう……」
という感じ。
記事は情報源を隠していたが、もちろんボガート艦長やその部下の口から漏れたに違いない。
「では諸君、言うまでもないことだが、今後もより徹底した隠密行動を心がけるように」
と大隊長は締めくくったが、苦虫を咬みつぶしたような顔をしていた。
その日もパトロールが始まり、僕がこの話を聞かせると、なんとコバルトは笑い始めるじゃないか。
「コバルト、おかしいことなんか何もないよ!」
「いや、おかしいね。あくまでもジュゴンを見間違えたのだと言い張ればいい」
「そううまく行くかなあ」
「行くさ……。ところでトルク、お前は一体どのくらいの給料をもらっているのだね?」
「えっ給料? 少尉の給料なんか知れているよ。もちろん危険手当はつくけどね」
「危険手当? どういう危険なのだね?」
「なんたって、この世で最も危険で取り扱い注意の生物と一緒にいるんだから、手当ぐらい出るよ」
実を言うと、僕は少し緊張していた。
コバルトが怒り出すか、少なくとも横目でジロリぐらいはしてくるものと思っていたんだ。
ところがコバルトは「よかったな」と一言いって、それで終わりだった。




