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 こうやって話している間も、輸送艦は迫ってくる。コバルトも悠々と泳ぎ続けている。

「ええい」

 ヤケを起こしたのはコバルトではないよ。僕なんだ。

 僕だって、行動を起こすべき場合は理解している。全身の力を集めて、コバルトの左手を叩いたんだ。

 潜水服のヘルメットが開かないよう押さえている手だ。

 潜水服の手首部分には、うまい具合に突き出した金具があり、それでコバルトの手を突くようにした。

「痛っ」

 コバルトが思わず手を引いたのも無理はない。

「お前、何をしやがる!」

 だがその隙は、ヘルメットを押し上げて潜水服から抜け出すには十分だったんだ。

 僕はまるで木登りをする子供のようにして、ランドセルからコバルトの後頭部へとよじ登った。

 両足を開いて、どっしりとコバルトのうなじに座ってしまう。

「トルク、何をする気だ?」

 あとはもう一息。髪の中をまさぐって、コバルトの両耳を見つけ出せばいい。

「くそっ、耳カジリめっ」

 だがその勢いも一瞬のことで、効果は想像以上だった。怒鳴り声になりかかっていたコバルトも、あっという間に空気が抜けてしまったかのようだ。

 ギラギラしていた瞳からも光が消え、ため息をつくように短くフウと息を吐いたんだ。

「潜るんだ、コバルト」

 返事はない。だがすぐにコバルトの体は波の下に沈み始めたから、もはや逆らう気はないのは明らかだった。

 それを見越して用意していた緊急用ボンベを、僕はうまく口にくわえることができた。

 僕もコバルトももはや全身が波の下に隠れ、輸送艦からは見えないに違いない。

 数分後には、僕たちは輸送艦の背後にまわっていた。

 浮上して双眼鏡を使っても、輸送艦の後ろ姿は遠くなりつつあり、煙突から吹き上げる煙がヘビのように空に線を引いているだけだ。

「機雷はどっちだい?」

 僕が問うと、コバルトはふてくされた顔をした。

「あの船が進んでいる方向ではない。もう5度ばかり舵を左に切らないとな……。ちぇっ、あと少しだったのに」

 潜水服の中には入らないまま、僕はコバルトの肩に腰かけた。

「あんたが僕の仇を取ってくれようとしたことは評価するよ。だけど、もうちょっと平和的にやってよ」

「フン」

 これはなかなかご機嫌が直らないかな、と僕は思った。後で高級肉を買ってやらないといけないか。

 少ししてコバルトが口を開いた。

「サイレンの両耳を引っ張るとおとなしくなると、なぜ知っていた?」

「『コバルトと付き合うなら必要だろう』って、リリーが教えてくれた」

 いかにもあきらめた風に、コバルトはかすれ声を出した。

「余計なことを教えやがって……。だが効果抜群で、サイレンは一瞬で闘争心を失ってしまう。まるで猫の首筋をつかんだ時のようにな」

「……」

「ほら見ろ。リリーのことを腐れサイレンと呼ぶ気力まで失せた」

「いいじゃないか」

「思いっきり引っ張りやがって。耳が痛くなったじゃないか」


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