すべては鍛練の道
森の少し奥に突如として現れた丸太で組み上げられた掘立て小屋は真新しく少し青臭く苦く酸っぱい若さの香りが漂っていた。
「野営の度に小屋を立てりゃもう大工をあきれる腕前になるのね」
フラメリアが仁王立ちのジークに言葉を投げかける。
「あぁ、これでも仮住まいだ、防腐処理をかけてないから月日が経てば腐り朽ちて大地に帰る、まだまだ本業の技術には追いつかないさ」
少年はジークの背中の広さを改めて痛感していた。
「おい、手が止まっているぞ」
少年は促されて手斧で丸太を割りを続ける。
何とも頼りない腕や足腰にはまるで力が入ってはいない。
コッコッコト……パコンッ
丸太に突き立てた手斧の刃は刺さった状態で敷石に叩きつけてやっと半分に割れた。
後何度叩きつけて薪を割るのかと思いながらも半分に割れた丸太を拾い上げ敷石の上に置き再び手斧を振り下ろし手斧の先を丸太に突き刺す。
「まぁ、気長にやろうや、ここの丸太を全部薪にできる頃には少しは体も仕上がるだろうさ」
そう言いながらジークは少年に背を向けたまま軽く手を振り小屋に入ると戸の入ってない窓から様子を窺っていた。
「なんだい、約束したじゃないか稽古をつけてあげないのかい?」
フラメリアはその様子に怪訝な顔をみせていた。
ジークはそんな様子を気にも留めず膝辺りまである丸太をナイフで削りながら座面を整えて素朴で腰掛けのない椅子を仕立てている。
「よし、机はどうするかな」
ジークはそう言い残して小屋を後にして森に消えてしまった。
「はあ……まったく、これだから男って奴らはサッパリだわ」
フラメリアは肩を落として左右に頭を振って気分を切り替える事にした。
今も薪割りに奮闘している少年の労いに答えて回復薬を生成することにした。
きっと手は豆だらけに違いないと考えて止血効果に筋肉と精神の疲労も和らげられるようにと考えを巡らせる。
背負子の引き出しから小瓶に入った草の花や種をジークの作った椅子に並べる。
フラメリアにはジークの作った椅子も作業机としてでは変わらなかった。
「あぁ、切らしてるから取ってこないとね」
幾つか足りない素材を思い浮かべて呟くとフラメリアもまた森に消える。
小さな掌は真っ赤になり指にできた豆が潰れて痛々しく若さのある柔らかな掌はみるも無惨に荒れていた。
「あいたた……まだまだ丸太は沢山あるから頑張らないと」
おもむろに上着を脱ぎその裾を手斧の刃で器用に裁ち切り帯状の生地を手に巻き付けて作業を再開する。




