古き日の手紙に込められた思い
うぅん……体が重いや、遠くで話し声がするけど。
あぁ、フラメリアさんとジークさんの話す声かなぁ。
話す内容は頭の中には入ってこないが何やら楽しそうなのは伝わってきた。
「うぅん……っ」
少年は掛けられたマントが意外に大きく出口を見つけ切らずもがいていた。
「うえっ臭い」
歴戦のマントも少年にはただのボロ布でしか無かった。
「ひっでぇなぁ、わざわざ掛けてやったってえのに感謝の言葉も無しかよ」
ジークは不貞腐れて悪態をつきながらマントを取り上げる。
「なぁ、寝ている間に色々と話は聞いたのだが分からないところがあるから聞いていいか?」
少年は鳩が豆鉄砲を食ったような顔でフラメリアの方に向き直りギロっと睨みつける。
「なんだよ、二人して俺の過去に興味があるのかよ」
ジークが強引に話の間に割って入り隣に腰掛け少年の肩に手を回す。
「まぁまぁいいじゃねーか、その爺さんってのが親代わりだったんだろ?」
少年はジークにさりげなく渡された湯呑みを受け取り小さく頷く。
「突然居なくなったから凄く心細くて置いて行かれたと分かったのは何日かたった後だった」
ジークは肩に回した手を少年の頭に乗せ少し荒っぽく撫で回した。
「そりゃ辛かったな、でもよ俺たちと出会えたのも預けられたからだろ、なら恨みっこ無しだぜ」
フラメリアは微笑ましそうに二人の様子を眺めていた。
「そう思えばあの爺さんの話しはほとんどしてこなかったね…これもいい機会だ」
そう言いながらフラメリアは背負子に積んである本を一冊手に取り挟んであった手紙を差し出す。
「まだ見せた事がなかったね、爺さんの気持ちだと思って受け取ってやってはくれないだろうか」
少年はそう促されて戸惑いながらも手紙を受け取り中身を確認する。
少年の手にある封筒からは2枚の手紙が出てきた。
少年は手紙を広げ読みかけた途端に目から涙が頬を伝う。
ジークは寄り添いまた荒っぽく撫で回した。
「今日はいっぱい泣いていいからな、遠慮すんなよ」
少年はそれを聞いて唇を噛み締め小さく頷いた。
「なぁ、二人には分かるんだろうがもう少し教えてくれないか?」
それぞれが思い出に浸るのを他所にジークは痺れを切らしていた。
「フフッそれもそうだね、面識も無けりゃ素性も言ってないからねぇ」
フラメリアは勿体つけるようにジークに流し目を送りながら腰に差した赤い宝石の着いた短剣をこれ見よがしに見せびらかす。
「ある程度の武人であればプロミネンス村のデリウスと聞けば思い当たる節があるんじゃ無いの?」
突然に思いがけない名前が飛び出しジークは唖然とする。
「おいおい待て待て……プロミネンス村って言ったらドワーフの隠れ里じゃねぇか、しかもデリウスだと?」
少年はことの自体を把握できず二人の顔を交互に見ては様子を伺う。
「デリウスさん?」
フラメリアは優しく微笑み少年に語りかける。
「それでもデリウスは君の育ての親さ、ヒュームの子と分かっててもね」
ジークは子供のように夢中になってデリウスの事を語りだす。
「プロミネンスとデリウスの刻印のある武具はどこ国で取引されても国宝扱いだ、一度は握ってみたいもんだぜ、型の稽古で見た剣だと透き通るほど洗練された刃の仕上がりに装飾の荘厳さ、そして太刀筋がまるで光の尾を引くような美しさ……く〜うっ」
ジークは思い出しながら項垂れるように肩を落としていた。




