荷馬車は満身創痍。
隣国タラゴン軍事国街道付近緑道。
静まり返った森の中を騎馬兵隊が慌ただしく疾走している。
騒ぎを聞きつけ吊り橋のかかる谷へむかっていた。
「火の気の無いはずのあの辺りで一体何が……」
悪い思いを巡られていた隊長の思考に割って入るのは先頭を走る騎兵の声が響き渡る。
「荷馬車が前方より接近、積荷の確認します」
目の前に現れたのはいかにも疲れ切った荷馬が肩を落として荷車を引いていた。
荷車の幌には国章が引き裂かれ哀れな姿で風に靡いている。
タラゴンの騎馬兵が荷馬車の運転台で手綱を引く兵士に声をかけ様子を伺う。
「よーし!そこで止まってもらおう。」
指示に従い荷馬車は止まり荷馬は限界を迎え座り込んでしまう。
「カフェライム国の荷と見受けられるがこの様子いかがしたのか伺ってもよろしいですかな」
運転台の傷つきぐったり疲れ切った兵士が顔を上げ答える。
「これはこれは失礼致します。納品予定でした回復薬をお持ちしました。道中で盗賊の奇襲にあいこのような惨状ではございますが積荷は無事でございます。」
先行隊に遅れて騎馬兵長も駆け寄る。
「どうやら盗賊の姿は見当たらないようだが谷はどうやって切り抜けられたのか? 」
荷台から勢いよく人影が現れる。
「まったく……とんだ災難だよ」
真紅のローブを纏いフードを目深に被っているにも関わらず眉間に皺がより鋭い眼光が辺りの空気を凍らせる。
「やぁやぁ術士殿はご立腹ですな」
居た堪れず騎馬兵長が声をかけてきた。
「国章の入った荷馬車まで狙うとは、最近の盗賊は何だいあの連携と作戦の緻密さに恐れ入ったよ」
先程まで饒舌だった騎馬兵長の顔が急に曇る様子がみてとれた。
「これは申し訳ない、此の所は隣接する国との情勢が不安定でそれに勘付いた傭兵が集まるのは良いものの荒くれ者も多く手を焼いてましてな」
術士はそれを聞いて大きくため息をつき肩を落とす。
「はぁ、なるほど……まったく戦争屋はこれだから苦手だ、大急ぎで回復薬の発注で人助けは嬉しいが戦局によっては助からない命もあるのだよ」
術士は苦虫を噛み潰したように顔を歪ませると騎馬兵長もそれに気付き恐れをなして馬から飛び降り冷や汗をかきながら頭を下げる。
「これは手厳しですな、フラメリア殿さえよければこちらの兵士のために後方支援していただき何卒治療の程をお願いしたいのですが……」
まるで風のように甲冑の重さも感じさせないほど素早く荷台を飛び出し二人の間に割り込む。
「……何奴っ」




