追憶の彼方
古代語が……まさかこんなところで役に立つとは。
先生は今どうしていますか……。
「おい、ボウズこんなところで何をしている?ボォっとったってんじゃねぇ」
背中には沢山の荷物を背負い身軽な身のこなしで足元の悪さも感じさせない不思議な男に声をかけられる。
「オレはよくわからない、何がしたくてここにいるかも」
痩せこけた少年は大人たちの歩みに必死に着いて行こうとしている。
「そんなに突っかからないで置いてやってくれないか、これでもワタシとっても大事な話し相手なんだからな」
そう言いながら折り畳みの望遠鏡を伸ばして遠くを確かめながらも足元に気を配り歩き始める背負子には沢山の本が積まれている。
「オレはボウズの飯まで運ばされてんのかぁ、全く……護衛と聞いたのにバックパッカーじゃねぇか」
ブツブツ文句は言うものの楽しそうでもある。
「ジークよ、もう少し静かにしてくれないか賑やかなのは苦手でな」
ジークは先程まで軽快な足取りが少し元気を無くす。
「フラメリア殿は部屋に篭りっきりではないか、いつもと違う空気を吸っているなら少しは陽気になるってもんだろう」
カチッ
フラメリアは折り畳みの望遠鏡を片手にしまい辺りを見回す。
「今日は峠を降った先の森の手前で野営にしよう。そうすれば君の荷物も少しは減るだろう」
嫌味を言いつつも歩みのお粗末な少年を気遣っての判断だった。
「枝でも拾ってくるか、あぁ、ネズミかウサギがいたらそれも良いな」
そう言ってジークは背負っていた鞄を下ろし袋から肘から手首までありそうな刃渡のナイフを鮮やかな手捌きで振り回してフリに消えていく。
「なぁ、手伝ってくれ、飯にしようと思うのだがこの先を降ったら沢があるはずだから水を汲んできてくれないか?」
フラメリアはジークの背負っていた鞄からバケツを手に取り出し差し出した。
フラメリアは石を集め風除けと五徳に使えそうな形を選別して手際よく組み立てて鍋を置き座りの確認と火の管理できる様に石の積み方を変えて風の通り道を作る。
「あいつら何処までほっつき歩いているやら」
そう言いながら背負子の本に手を伸ばした時の顔は優しく微笑んでいた。
昼前から読み始めた古びた表紙の手記は残すところ僅かになった頃、日は落ち始め辺りは赤く染まる。
ドサッ
「すまない…手こずってしまってな。ガハハ」
ジークは照れ隠しと不甲斐なさを合わせたような笑いをみせる。
「これは酷いな何があった」
息はあるもののずぶ濡れになりぐったりした少年は地面に横たわる。
「下流の方で狩をしていたら沢を流れる人影が見えてな、慌てて助けたがこの様よ」
フラメリアはジークが小脇に抱えた薪とウサギを受け取り火を起こす準備を始める。
落ち葉に枯れ草、小枝はチップにして先ずは種火が燃える床を作る。
腰から真っ赤な宝石の付いた短剣を取り出し魔力を宝石に込める事で刃先から火種が雫の様に垂れて敷き詰めた草の上落ちる。
火種が定着して枯れ草が灰になる頃を見計らい乾いた薪から火の中に焚べる。
湿気を帯びた薪は組んだ風除けの上に並べて乾かす。
次の薪の準備も抜かりは無い。
風除けの石が温まってきた頃を見計らい少年を火のそばで寝かせる。
「さぁ、ウサギのスープでも作るかね」




