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襲撃

曇らせの予感



 居間を抜けて廊下に行き、おそらくここだろうと脇にあった扉を開ける。それは正解で中は洗面所だった。

 地下室の割には以外と綺麗で設備もしっかりしている。隅っこの方には姿見があり、それに気づくとすかさず目の前に行った。


 初めて見るセキのご尊顔、それはというと――


「わっ、すっごい美少女……」


 思わず声が出てしまうほどの美形だった。


 背中の半ば程の長さの銀髪、目は翡翠色で輪郭もシュッとしている。どちらかといえば可愛い系だろうか。

 年齢は見る限り二十歳には届いていない。とにかく全体的にパーツが整っていてまさに容姿端麗の名に相応しい。


 これはディンやセシルも見惚れるわけだと納得した。けど何も反応を示さないイヴァンはちょっと変わっている。


 しばらくして一通り観察し終わるともうさっさと風呂に入ってしまおうと服を脱ぎ始めた。セキの裸に対する葛藤はなかったと言えば嘘にはなる。

 けど、それが自分の身体だと思うとどうしても萎えてしまっていた。結局はただ自分の身体を清めてそれで終わり。困ったのは髪の洗い方くらいなものでイベントも何も無い。

 気合を入れた割にはあっさりとした結末で拍子抜けする。


 火照った身体を冷ますように備え付きのタオルで髪や身体から水気を拭き取る。姿見が見えてもう一度マジマジと見たくなったが自制をした。


 「ふぅ」と一息付くと籠の中に仕舞っていた服を取り出す。そしてそれを見たときに「あれ?」となった。


「違う服だ」


 アキ自身身だしなみには執着しないタイプだった。そのせいもあり別に今日くらいは同じ服を着回そうと考えていた。なのに服が変わっている。流石に下着の類はそのままだったが他は寝間着へと。


 それを広げて見ると明らかに女物だった。更には試しに着てみるとサイズまでピッタリでビックリする。


 十中八九イヴァンが気を使って用意してくれた物。そんなことには気づいていた。この服は同棲していた女性の物だと容易に想像がつくからだ。


 だとしてもここまでアキの体型と一致しているのはおかしい。アキがこの学園に来たのは今日のことで、今更すぐに用意できるとは思えない。つまりこの衣服は昔からここにあったもので間違いないと思う。なら何故……?


 一瞬、とある可能性が脳をよぎった。

 存在するセキの衣服、同棲していた女性、隠された恋愛小説。

 ありえない話ではない。だってセキはイヴァンと仲が良かったみたいだから。


「うーん……」


 イヴァン、彼のことはちょっと嫌な奴。そんな印象だった。でもこの話が本当ならばそれは変わる。同棲するほど仲が良かったのに死んでしまったセキの生き写しを嫌な顔せず受け入れてくれた。


 きっと一緒に住んでいた相手がセキだったということは黙っておくつもりだったのかな。そんな想像をしてのそのそと服を着る。


 とりあえず、今は何も気にしないで普通に接しよう。洗面所の扉を開けて居間に出る。


「お風呂ありがとうございました。私はどこで寝れば……ってあれ」


 居間を見渡す。先程までイヴァンが座っていた椅子は乱雑に床に投げ捨てられていて彼の姿はどこにもない。いったいどうしたんだろう、疑問に思って居間を彷徨った。しかし足を進める度に怖くなって嫌な予感がしてくる。


 もかしたら盗人が入ったのかもしれない。だからできるだけ、ゆっくりと粗がないように全ての部屋を探して回った。けど誰もいなかった。


 ……これは一回外に出るべきだ。すかさず地上へ出る階段を登る。当たり前だが出た先は学園内部の廊下だ。見た目に変化はなかったが、そこでアキは異質な音を捉えた。


 ――何かの爆発音みたいな……?


 何か異変が起きている。そう確信して音の方向へと進んでいった。音がどんどん近付いていく。物がぶつかりあう音、破裂するような音、それと……人の声。


 この声は……イヴァン?

 異変が起きているのは中庭のようだった。窓から顔を出して覗く。


 見えるのは5人ほどの生徒とそれを庇うようにするイヴァン。対する相手は――


 ――人の顔をした四足歩行の翼が生えた生き物だった。


 空を飛び回りイヴァンが放っている魔法を避けている。地面には結構な量の血痕があって――って血痕!?


 ハッとして状況を確認した。イヴァンが庇っている生徒の一人の服が真っ赤に染まっていた。衣服のせいでどこを怪我しているかは分からない。でも流石にあの量はヤバいんじゃないか。


「うっ」


 ――頭がピリピリする。こんな大量の血を見たのも、あんな変な生き物も、そもそも戦うという行為を。……全てが初見で意味が分からない。

 そもそもアキはこの世界はもっと平和な世界だと信じていた。魔法はあるけれどそれだけで他は何も無い普通の世界だって。なのにどうしていきなり――


 「アキ!伏せろ!」


 「え?」


 突然の指示に理解が追いつかなかった。気になって上げた顔から見えたのはどんどん大きくなる黒い影。急いで頭を下げようとしたからよく見えなかったが、きっとあの化け物が迫っていたのだろう。


 到底、そんな中途半端に頭を下げただけの姿勢では避けれるはずがない。壁や窓、その周辺の地面を抉りながらソイツはやってきた。


 視界がぐるんと回る。同時にとてつもない圧迫感と激痛も。目の前が一気に真っ暗になり苦しくなる。

 声は不思議と出なかった。それだけ一瞬のことだったから。


 気づけばアキは教室の隅っこで突き破られた壁の瓦礫に囲まれて倒れていた。荒い息を吐く。全身が痛い。状況も何も把握できていない。辺りは真っ暗で何も見えない。今自分が上を向いているのか下を向いているのか、それさえも。


 呼吸が速くなる。死の予感を感じ取って気が気じゃなかった。


 ――に、逃げないと。


 一心不乱に立ち上がろうする。けれど足がよく動かない。まるで自分の身体じゃないようにうまく反応してくれない。咄嗟の思いで今度は床に手をつけようとする。二の腕を軽く上げると何かがベロンと垂れてくるような感触がしてくる。


 それに気づいてアキはゾッとした。この真っ暗な空間の中、それが剥がれた腕の皮に思えて仕方なかったからだ。違う、と信じて肘を地面につけようとする。


「……ぃっ!」


 かつてないほどの激痛を感じすぐさま腕を上げる。その時点でもうここから動くことをアキは諦めた。できるだけ腕をかばうように、表皮が物に触れないように心掛けた。激しい刺すような痛みに耐えることができなかったのだ。


 今ここでジッとしているだけでも空気が腕に触れて痛みを発している。全身に力を込めて必死にそれに耐える。


「生きてますか!?」


 そんな時に声が聞こえた。複数人の女の子と男の子の声だった。


「……ぁ、たすけて……!」


 掠れた声で返事を返す。それを聞き取ったのか、掛け声と共に瓦礫が持ち上がる音が聞こえた。明るくなっていく視界。そして見えていく自分自身の身体。

 腕全体は真っ赤に染まっていて、抉られたのか大きく皮、そして肉がめくれていて骨が露出していた。

 足は片方は無事だがもう片方は開放骨折というやつになっていた。


 まさかの惨状に唖然とする。認知したせいなのか痛みもだんだんと襲ってくる。


「……ぁがっ、うぅぅう……!」


 助けてくれた子供達は唖然としていた。女の子の一人が口を両手で隠し「そんな……」と言う。男の子の中には目を背けている人もいた。

 この子達はさっきイヴァンに庇われていた子。そんな考えに至ったが、正直どうでもいい。


 この極度の痛みに耐えるだけで精一杯だった。

また長くなりそうなので切ります

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