第八話 メシ屋
そうこうするうちに、街に着いた。
「子どもを連れた女の人を探そう」
リュウが言い出した。
「は?」
「うそをつかなそうな人に、
ここがなんの街か聞くんだ。
そうすれば、僕たちが今
地図のどこにいるのか、はっきりわかるよ。
もし道を間違えていても、
街に着くたびに確認すれば
すぐ軌道修正できるのさ」
世間知らずかと思ったリュウが
私の気付かなかった事を言ったから
私はびっくりした。
「あんた、しっかりしてんのか
頼りないのか全然わかんないね」
「え?なんで?」
「賢くなったり、呑気になったりするからさ」
「そうかな?僕は賢くないし、呑気でもないと思うよ」
「じゃあ何だ?」
「普通の人だよ」
ともかく、街の住人に質問した結果
私たちは目的地に向かっていることが
確認できたからよかった。
「出発してすぐに非常食を減らすのは
気がすすまないね。
今日は手持ちの食糧じゃなくて、
どっか食い物屋に入って晩メシにしよう」
私たちは、安くてうまそうな
汚いかっこうの旅人でも入れる店を探した。
「ここに入ろう」
私はいかにもハミ出し者っぽい外見で
たぶん警戒されると思ったから、
リュウを先に店に入らせた。
「いらっしゃい!」
男の店員が大声で言った。
「一番人気のメシどれ?」
店内は、ぱっと見ただけで
かつかつの暮らしだとわかる
疲れた大人の客で混み合っていた。
「それいくら?」
私たちはせまいテーブルの、
横に並んだ小さいボロ椅子に座った。
「じゃ、それ二つお願い」
メシは早く出て来た。
ここんところ、ずっと
ロクなものを食ってなかった私には
うますぎるメシだった。
「うまいな」
「うん。うまいね。
この店にしてよかったね」
リュウは感想なのかお世辞なのかわからない事を言った。
村から一歩も出たことがなかったような話をしていたが、実は都会に慣れているのだろうか?
彼が何者なのか聞こうと思ったが、
人混みの中で話す話題でもないかと思って
私はリュウがこれまでどんな暮らしをしてきたのか、また聞きそびれた。
出身地の村の名前すら知らない男と
一緒に旅をしている自分に、私は驚いた。