第七話 試験
「街に初めて着いた時は、人がすごくたくさんいて
本当にびっくりしたけど、三日もいたら慣れちゃったよ」
「へぇー」
こいつ、案外柔軟かも。
私は思った。
人混みに気分が悪くなる人もいるけど、三日で慣れたなんてすごいじゃない。
見直した。
「試験って何をするんだ?」
「試験はね、最初に体の大きさと重さを測られたよ。
重さを量るなんてそんな、野菜みたいなことしたの初めてだったよ」
「そうだねぇ。野菜みたいなもんだと思われてたのかもね」
「そっか」
嫌味を言ってもリュウは気付かない。
ちょっと物足りない気もするけど、なんでも言えるから一緒にいてすごく楽かも。
「それで終わりか?」
「終わらないよ。そのあとメンセツってのをしたんだ」
「面接?」
「係の人と、ただおしゃべりするだけだよ」
「かんたんそうだな」
「うん。だけど僕、面接のせいで
試験官に目の敵にされたんだ」
リュウが困った顔で言った。
「目の敵?
ただ不合格になっただけじゃないのか?」
俺が聞くと、違う違うと言う。
「たぶん面接で、まずいこと言っちゃったんだ」
「何て言ったんだ?」
「それを説明するには、けっこう長い話になるんだ。
まず、面接に呼ばれて
僕は友達も含めた五人で部屋に入った」
「へぇー。一人ずつしゃべるわけじゃないんだな」
「うん。そしたら、面接官って人が三人座っていて
後ろに護衛みたいな見張りが二人立った」
「試験を行うほうも五人、受けるほうも五人か。
五分五分だ」
「あ、ほんとだ。
それで、面接官からいろいろ質問されて
途中まではすごく気が合うって感じで良かったんだ」
「どんな感じ?」
「なんか、すごくほめられたよ。
すごいね、すごいねって」
「子供扱いだな」
「そうなのか?いやだな」
リュウは笑いながらそう言った。
「だけど話が合うと思ったんだ。
そしたら最後に、面接官が急に厳しい態度になって、
もしお前たちの故郷が国に楯突くようなことがあったら、国のためにひるまずに戦うことはできるか?って聞かれた」
「ふん。失礼だな。
味方にいきなり『裏切りますか』って聞くかよ」
「そうだよね。グレンもおかしいと思う?」
私が文句を言ったらリュウは嬉しそうだった。
「みんながハイ!ハイ!って答えて、
友達も、もちろんです!って言ったよ。
それを聞いて、僕は
なんか変だなあって気がついたんだ」
「偉いやつのやることは変に決まってるさ」
「そういう意味じゃないんだよ。
僕が言いたいのは…
…うーん…
うまく言えないんだけど、村のみんなを
国の持ち物みたいに言われたくないっていう感じかな」
リュウは、頑張って考える顔になった。
「まあ、細かいことはいいさ。
お前、何て答えたんだ?」
「僕はね、こう答えたんだ。
兵隊になったらもちろん誰とでも戦いますよ。
仕事だから当然ですよね。
でも、いろんな出身地から兵隊を
集めているわけだから、わざわざ
故郷を攻撃しなくてもすむように
人選できるはずですよね、って」
「あはは。それは言えてる」
「言えてるだろ?
グレンに文句言っても筋違いだけど、
面接官はすごく偉そうで嫌だった。
そもそも僕みたいな人間にとって、
村が大事なのだから、国なんか
どうだっていいんだよ」
リュウの言いたいことは、私にはよくわかる気がした。
こいつが単なるアホじゃなくて
自分なりの考えを持ったやつだと
いうことがわかった。
マシなやつと知り合いになって
ラッキーだったな、と私は思った。