第五話 出発
商談が成立したから、私はリュウを
秘密の寝ぐらに案内した。
信用したわけだけど、仲間意識とかは無かった。
どうせ今夜で明け渡す寝ぐらだ。
もう私の秘密でもなんでもない。
そんな軽い気持ち。
並んで歩きながら、リュウが私のことを
男だと思い込んでいることがわかった。
なにそれ。
仕方ないわね。きっと私が、男から盗んだ服を着ていたせい。
でも私は、じつは女なのよ、と言えなかった。
失恋して傷ついていたのかもね。
私は案外、プライドが高いの。
うっかり男のふりなんかしちゃった。
「俺だって夜通し歩く趣味は無いぜ。
今日はここで寝て、明日の朝出発しよう」
私は、冬のあいだ寝袋の上にかけて使っていた毛布を出して広げた。
「リュウ、お前を信用して
寝袋か毛布、どっちか好きな方を使わせてやるよ」
「ありがとう。
じゃあ、僕は毛布で寝るよ」
そいつは、あくまでも
私を疑わないようだった。
毛布を敷く位置について
何も要求してこなかったし、
毛布にくるまってからも、わりと
すぐ寝息を立て始めた。
私にとってそれは、ちょっとした
カルチャーショックだった。
さて。
朝になって私たちは旅に出た。
私の全財産
…ナイフと寝袋と毛布と食べ物少し…
をロープでくくって背中に担いだ。
リュウの持ち物は夜中にこっそりチェックしておいた。
短剣とロープと、財布にはたぶん3日間くらいの旅ができるお金。足りないよね。
毛布は、途中でリュウに渡した。
この森ともお別れだ。
私は戻って来ないぞ。絶対!
「目的地は、けっこう遠いみたいなんだ。
こっちのほうに、ずーっと行くんだ。」
リュウが地図を広げて言った。
「遠いのか近いのか、地図を見ても
全然わからないわね」
私は字が読めないけど、地図は小さい頃に
母さんからもらって眺めてた。
だけど、リュウの地図は絵がすごく雑。
それでいて言葉が多いから、わけわかんない。
地図の縮尺もわからないし
自分がどこからどこへ
旅しようとしているのか
見当がつかなかった。
「僕たちは今、この辺にいるはずなんだ」
リュウが地図の右下の
端っこのほうを指差した。
「だから、こっちのほうに歩いていけば
いいと思うよ」
「あんたが道に迷ってないことを祈るよ」
私たちは歩いた。
「グレンは街に行ったことある?」
「無いね」
「そうか。僕も
ついこの間までは、生まれ育った村を出たことは無かったんだ」
「宝探しの旅に出るまでは?」
リュウは首を横に振った。
「実は、そうじゃないんだよ。
僕が村を出たのは、兵隊に志願したからなんだ」
「兵隊?」
そういえば彼が何者なのか、まだ聞いてなかった。