第四十六話 画家になりたい
夕方、雨が降ってきて私たちは
二人で旅に出てから最初に入った怪しい宿とよく似た、さびれて汚い感じの宿に入るしかなくなった。
「グレン、どうする?
もしまた戦うことになったら嫌だけど…雨だね」
「うん。リュウが領主さんに会うときに印象良くしておきたいから、雨の中で野宿は避けたいね」
「そうだね、いちかばちか入ろう」
入ってみたら正解だった。
他に客は誰もいなかったけど、親切な宿だった。
私たちは所持金がなかったから
雨宿りだけさせてくださいと言ったけど
掃除をすることを条件にただで泊めてくれた。
そして食事まで出してくれた。
こんなありがたいこともあるんだ。
食堂には絵が飾られていた。
それを見て私は思った。
「私、やっぱり画家になりたいな」
何かを描きたいというより、とにかく
絵を描きたいと思った。
「だけど私、リュウが無事に…」
領主、と宿の人がいる前で言わないほうがいいと思って私は
「その人の後継者になるまでは見届けるからね」
と言った。
「怪しい人がいないかとか、変なことが起きないかとか見張るよ」
「そうか。グレンは画家になりたいんだね」
リュウは言った。
「ずっと一緒にいられないのは寂しいけど、お互い頑張ろうね。
僕の旅についてきてくれてありがとう」
私は頷いた。
そうだ。これはリュウの旅なのだから、この旅で
私は何も得られなくても後ろめたいと思う必要はない。
いや、得たものはある。やりたいことを見つけたじゃないか。
全てこれからだけど、これでいいんだ。
翌朝、目的地までまだまだ歩かなければならない私たちは急いで掃除をすませ、昼になる前に出発した。
雨は止んでいたけど、私たちが
お金を持っていないことは変わらない。
こんな親切な宿に泊まれる幸運を
あてにするわけにはいかない。
「あとどのくらいで着きそう?」
「うーん」
リュウが王様にもらった地図を見た。
「まだまだだよ、ここからここまで3日歩いたけど、同じくらいありそうだ」
「そっか…」
「お城も見えないもんね。大きい建物だから
まあまあ遠くからでも見えると思うんだ」
「たしかに…」
「でも道は合ってるはずだよ。いつか必ず着くから頑張ろう」
「そうだね」
私はもうこれ以上、野宿したくなかった。私たちの服がだいぶ汚れてしまったことが気になって仕方なかったからだ。
こんな格好では領主さんは会ってくれないのではないか?
そもそもお城に入れてもらえなかったらどうしよう?
だけどその不安を、リュウには言えなかった。
私は彼をも不安にさせたくなかった。
そんなこと気にしないよ、と彼なら言いそうだ。
それでも、絶対に大丈夫とはいえない。
彼がもしかしたら気にするかもしれないと思うと私は、愚痴を言いたいためだけに賭けに出ることはできなかった。
「もし僕が偉くなったらさ」
歩きながらリュウが言った。
「僕が領主になって3年たったとき、グレンがもし結婚していなかったら、迎えに行っていいかな」
「…うん」
「だからどこに住むか決めたら教えて」
「うん」
「結婚するときも教えて」
「…うん」
「英雄と盗賊の娘はさ、生きていたらたぶん二人で故郷に帰って幸せに暮らしたよね。
でも僕たちは、そうじゃない。領主と画家になるんだ」
「うん」
「それは僕たちが決めた道だ」
「うん。私たちは自分の運命を知らないけど、自分の生き方を決めた。
だからこの先どうなっても、私たちはきっと幸せ。自分で決めたから」
「うん。自分で決められるってすごいことだよね」
私たちは再び手をつないで歩いた。




