第三十二話 ルナ
私たちのお金を盗もうとしたかもしれない住人は
何の発言力もなく、そいつと交渉しても無駄で
どっちみち馬はもらえないことがわかった。
師匠もひどいもので、さっきまでは直接
話せたのに今は住人たちに囲まれて
話しかけることができない。
ずるい人だ。
「犯人を追いかけられるかもしれない。馬を貸してくれない?」
私は偉そうな住人にも頼んでみたけど
「山道は歩いたほうが安全だから
馬はやめたほうがいいよ」
と言われた。
じゃあ、この馬はどうやってここまで来たんだよ?
馬を貸したくないのだろう。
「犯人がどっちに行ったか、誰も思い出せない?」
「誰も彼を見ていないよ。
彼がまさか、ここからいなくなるとは
誰も思っていなかったから」
思い出そうともしない様子に私は苛々した。
「かばってんの?」
「わからないものはわからないよ」
私が言い合いをしていたらリュウが
「犯人を探せないなら、非常食をくれないかな。
お金だけじゃなくて食べ物も持っていかれちゃったみたいだから」
と言った。
すると住人たちは喜んで、保存食を人数分くれた。
あー、犯人はどこにも逃げてないな。と私は思った。
たぶん、こういうことだ。
初め洗濯係がカネをくすねようとして、通りがかった
オジサンと取り合いになった。
オジサンは洗濯係をやっつけてカネを持って逃げようとしたけど、誰かに見つかって
結局、カネは住人にとられてオジサンも逃げてない。
私たちが立ち去ればカネは彼らの手に入るから
オジサンも許されるって段取りだ。
もういいや。
どうせほとんどが、例の宿から奪ったカネだし。
そんなわけで私たちはすぐに山を下りた。
そして、じつは同行者が一人増えたのだ。
例の行き倒れである。
彼女は、私たちが助けたことを
非常にありがたがっていた。
回復すると同室のベリーたちと
仲良くなって、少しは恩返ししたいから
旅に同行したいと言っていたそうだ。
なんで行き倒れたか知らないが、
そいつは穏やかな性格で
カーラとセーラもなついていた。
行き倒れの彼女は、名前を
ちょっとためらってから
ルナ
と名乗った。偽名かも。
詳しく言わないから何ともいえないが、
家出でもしたようだった。
話してみると丁寧な言葉遣いで
けっこう良い家の出身かもしれなかった。
行き倒れたぐらいだからとても痩せている。
ベリーより少し背が小さくて
髪はツヤツヤした濃い茶色で背中につくほど長い。
リュウに言わせるとけっこう美人だそうだ。
まあ不細工ではない。
6人に増えた私たちは
リュウを先頭にベリーとルナが続き、
最後に私が双子の手を引いて歩いた。




