第三十一話 疑い
そこらじゅうに散らばる洗濯物の中に
黒い物体が転がっている。
一瞬のちに、それが人であるとわかった。
リュウのおつきをしていた住人が
何か叫びながら駆け寄った。
私も周囲を警戒しながら倒れている人に近づいた。
その時、さっきまで建物の死角になっていた片隅に
清潔になった寝袋が落ちているのが見えた。
私は先に住人の体を調べた。
「うん、生きてる」
頭を殴られて気を失ったようだった。
細い布を丸めたようなもので
首を絞めた跡もあった。
でもそれは中途半端に行われて
致命傷にならずにすんだようだ。
「なんてこと…なんて…」
駆け寄った住人は呆然とした表情で膝をつくと
泣き出した。
私とリュウは小走りに寝袋を見に行った。
寝袋は風に飛ばされて、壁に張り付いていた。
当然、中身のカネはなくなっていた。
破れた地図が見えたから、
風に飛ばされないうちに急いでひったくった。
「地図を回収したぞ。リュウが持っておいて」
「うん。地図の必要なところが残っていて
まだましだった」
私たちは倒れた人のそばに戻った。
「聞こえるか、聞こえるか?」
リュウがトントンと強めに肩を叩くと
その人は薄目を開けた。
住人たちと、師匠も駆けつけた。
「おい、大丈夫か?」
「誰にやられた?」
その人は助けられながらゆっくり起き上がった。
「一瞬のことで、誰だかわからないよ」
「寝袋のお金は?」
おつきの住人が聞いてくれた。
「ああ、洗うときにちゃんとお金はよけたよ。
横に置いていたんだ。あれ?
さっきまで、そこにあったのに」
あれ?じゃないよ。呑気すぎる。
殴られて奪われたに決まっている。
その後、犯人はすぐにわかった。
広間に寝泊まりしていた中から一人
いなくなっていたのだ。
「あの気さくな人が?」
「いい人だったのに」
「そんなことをする人ではなかったのに」
住人たちは口々にそう言って事件を悲しんだ。
まるで善良な人を罪人にした私が悪いみたいな
言い方に聞こえる。
なんだよ、感じ悪いじゃないか。
盗むのが悪いに決まっているのに。
百歩譲っても私は悪くない。
私がせっかく寝袋に隠しておいたお金を
ありがた迷惑にも洗濯に出して
それをうっかり見えるところに置いたのが悪い。
いや案外、洗濯係の住人と犯人とで
山分けしようとして、取り分のことで
もめたんじゃないのか?
だって、何も気にせず洗濯していたなら
目を離す隙はたくさんあるから
気絶するほど殴る必要ないもんね。
だとしたら洗濯係にも弱味があるってことだ。
被害者だけど、嘘もついている。
「お金は戻らないけどさ、そこの馬を
私たちにくれないかな?あんたが正直なら」
私は言った。




