第二十九話 神父ではない
師匠とやらの部屋についた。
「師匠様、失礼申し上げます」
案内の住人が中に声をかけた。
こいつ、そんな丁寧な挨拶ができるのに
私には失礼な話し方をしていたのか。
まあ、私はこいつの師匠じゃないから
しょうがないけどね。
でも、そっちがそういう態度なら
私だってここでは気を使わないことにするよ。
「どうぞ」
ゆっくりと落ち着いた返事が返ってきた。
住人に続いて部屋へ入ると、
奥の頑丈そうだが質素な椅子に
師匠らしき人が座っていた。
彼の前の無骨な机には、筆記用具が
丁寧に揃えて置いてある。几帳面な性格のようだ。
「わたしに大事な話があるそうですね。
どんな話ですか?」
「あんたのお告げの責任を取ってもらいたいんだよね」
私は短刀直入に言った。
案内の住人が横であわてたけど
師匠は怒らなかった。
「ふもとの村の人が、あんたから悪魔が来るって
お告げを聞いたんだって言ってた。
そのお告げのおかげで面倒が起きてるわけ」
師匠は、けげんな顔で
「どういうことですか?」
と聞いてきた。
やっぱりふもとの村の人が嘘を言ったのかもね
と思いながら私は話の流れを説明した。
「神父さんから悪魔が来るってお告げを聞いたから
外に出られないんだ、って昨日
ふもとの村のおばあさんが言ったんだ。
それで村に寄れなくて、私たちはここまで来た。
もともと山に登る予定じゃなかった。
しかも、ちょうど村の近くで行き倒れを見つけて
応急手当てを誰かに頼みたかったけど、
村の人はその調子で話にならない。
だから仕方なくここまで連れてきた。
おばあさんは、ここが教会であんたが
神父さんだと思い込んでるし、それで
私もここが教会だと思って来たら全然ちがう。
そういうわけ。
だから私は二つ言いたいの。
まず迷惑なお告げをやめて欲しい。
それと、ここが教会でもなく
あんたが神父でもないって
村の人にちゃんと説明して欲しい」
師匠は、よくわかるという感じで大きく頷くと、
「わたしは、村にそのようなお告げを
言っていないのですよ」
ゆっくりと述べた。
「どういうこと?
じゃあ、どうしてお告げなんて話が出てくるんだ?」
「あなたは、どうしてだと思いますか」
「なんで私?
私が考えたってわかるわけなくない?」
「そんなことはありませんよ、考えてみてください」
そう言ってじっと見られたので、私は
いちおう考えてみた。
「村の人が、あんたの言ったことを勘違いしたとか?」
「どうでしょう。わたしはもうずいぶん長いこと
村の人と話していませんね。会ってもいません」
「おつきの人は?」
「わたしと同じですよ。
村の人はここに来ないし、わたしたちは
村に行きませんからね」
「えー?会ってもいない?」
「そうですよ」
「じゃあ、おばあさんが私たちと関わりたくないから
口から出まかせで嘘をついたか…」
あ。
私は、いつの間にか相手のペースに
乗せられていた。
そして、そうじゃないかとは思っていたけど
結局、おばあさんが嘘をついたらしいって
結論になった。
たいしたやつだよ。
私は師匠を見て思った。
ただ穏やかに話してるだけで
問題を持ってきた私自身が、そいつの
無実を証明するようにしむけるなんてさ。
ずるくないか?
私に都合の良いことを言わせて
自分は知らない、わからないしか言わないなんて。




