第十一話 幸運
それは突然のことだった。
「お兄さんたち!」
と若い女に呼び止められたのは。
まさかここで声をかけられるとは
思っていなかったから私は驚いた。
「どこ行くの?
傘を貸そうか?」
なかなか高級そうな宿の、入り口に近い窓から
その人は身を乗り出してこちらに手を振った。
リュウは案の定なんの警戒もなく
ほいほい近寄った。
「まあー!ずぶ濡れね!ひどい」
相棒が行ってしまったので、仕方なく私も庇のしたに入った。
「二人とも、タオルを持ってくるから待ってて!」
彼女はタオルと熱い飲み物を持って戻ってきた。
私たちは促されるまま、正面の入り口から宿に入った。
けっこう恥ずかしかったが、意外に
他の宿泊客たちは私たちを
ちらっと見ただけで、じろじろ見る人はいなかった。
「はい、どうぞ」
「ありがとう!
君は優しいね」
リュウは例によって素直に喜んでいる。
女のほうも、リュウにほめられて
まんざらでもないようだ。
照れくさそうにしている。
「あたし、ベリーっていうの」
ニコッと笑って私たちを交互に見た。
こんな大きい宿で働いているなら、いろんな客を
見慣れているだろうに。
なんでリュウに一目惚れした様子なんだろうか?
優しそうだから?
私が言うのもおかしいけど、彼は
そこまでかっこいいわけでもないよね。
街には、彼より素敵な人がいくらでもいる。
「あんた、踊り子?」
私は、そいつのキラキラした
腹や脚を大胆に見せて
肩や腰にはビーズや宝石などの
飾りのたくさんぶら下がった
実生活には役立ちそうにない
服を見て言った。
「そうよ。
下のホールで踊るの。
今日は、もう終わったけど」
「見てみたい。毎日踊る?」
「そうよ、でも私が出るのは夕方だけなの。
あとでちょっと見せようか?」
「いいの?」
「いいわよ。ここに泊まる?
安く泊めてあげる」
「やった」
ベリーは私を弟扱いしている、と私は思った。
彼女はリュウと私を兄弟だと思ったみたいだ。
「よかったな!」
と言ったものの、どうする?
ここの街のやつらは
同業者どうしのつながりが
強いのか、それとも弱いのか…?
さっきの宿で私たちが何をしたか
情報は、どのくらいのスピードで
伝わるだろうか?
ま、考えてもわからないことを考えてもしょうがない。
野原でずぶ濡れのまま野宿することを考えれば、
少しの時間でも建物の中で寝られれば
ラッキーってことよ。
私たちは、ありがたく
泊まることにした。




