⭕ 夜の墓場で、かくれんぼ 3
鴉蓙見澤で行われる毎年恒例の夏祭りの日──。
太陽の陽射しが燦々と降り注ぐ最も暑い時間帯の真昼──。
人気はないが、日蔭があり、風通りも良い涼しげな場所として知られている墓場に5体の死体が転がっていた。
5体の死体は浴衣を着ている。
多分、宿泊していた旅館の浴衣だろう。
何故か全員、裸足で亡くなっている。
足の裏は裸足だからか、土で汚れており、爪の中にも土が入り込んでいる。
着ている浴衣も土で汚れており、所々に乱れが見られる。
両手にも土が付いていて、爪の中にも土が入り込んでいる。
この5体の死体が墓場で何をしていたのかは誰にも分からない。
何かに追い掛けられていたのだろうか?
身体のあちこちに擦り傷,切り傷,掠り傷等も見られる。
墓場で足を滑らせて転んだりしたのだろうか?
顔はと言うと酷いもので、両目は飛び出ており、口からは舌がだらんと垂れ出ている。
口から垂れ出ているのは舌だけではなく、涎と白い泡も出ているし、目には涙の跡も付いている。
鼻からは鼻水が垂れ出ていて、あまりにも酷い死に顔をしている為、死体の主である本来の顔が分からない。
旅館の証言により、5体の死体の身元が判明し、死体は遺体として扱われる事になった。
旅館の玄関には青年達が履いていた靴がきちんと並べられた状態で靴棚の中に残っている。
何故、青年達は靴を履かずに墓場へ向かったのか……。
墓場で発見された青年達の遺体は、両腕,両脚,首,胴体の何れもが有り得ない方向へ折り曲げられており、雑巾を絞るかのように両腕も両脚も捻られている。
捻れ方から見るに、中身の骨は粉々に砕かれているように思われる。
墓石や地面には、青年達の血やら糞尿が飛び散っており、汚れていて、暑さと熱気の所為もあり悪臭が漂っている。
鴉蓙見澤の村人達は、先祖代々の家墓がある墓地を荒らされた事に対して、「 罰当たりな事しおってからに!! 」とカンカンに怒っている。
「 一体誰が墓地の掃除をすると思ってるんだ!! 」とも怒っている。
血や糞尿が付いて汚れている家墓の持ち主達は、「 遺体の両親達に清掃代を請求してやろう! 」と話し合ってすらいる。
他県から遊びに来た5人組の男子高校生の遺体発見により、楽しい筈の鴉蓙見澤祭りは台無しとなった。
墓場には “ キープアウト ” と英語で書かれたイエローテープが張られていて、立ち入りを禁止されている。
先祖のお墓参りをしたい村人にしてみれば、実に迷惑千万で邪魔なテープである。
そんなイエローテープの前に1人の青年が立っていた。
蝉が大合唱する中、青年はジッと墓場を見詰めている。
「 ──日射病になるわよ 」
「 有明古さん…。
今は日射病じゃなくて、熱中症って言うんですよ 」
「 どっちも同じでしょ?
ほら、日傘を貸してあげるから差しなさい 」
「 有り難う御座います… 」
「 全く…、こんな真っ昼間から何を見てたの? 」
「 …………どうしてサユタ達が墓場で死んでたのかな──って考えてたんです…。
僕は…サユタ達が旅館に泊まってるのを知っていたから、会いたくなくて避けてました。
お祭りの日に墓場でサユタ達が殺されていたなんて……全然知らなくて… 」
「 ユタク君は、お姉さんとデートしてくれてたもんねぇ 」
「 デートって……。
有明古さんに連れ回されて、奢らされてただけですけど…… 」
「 え〜〜〜だってぇ、ユタク君ったら、ぜぇ〜んぜんお姉さんをエスコートしてくれないんだもん 」
「 エスコートって……。
僕、未だ高校生ですよ…。
有明古さんは40歳のオバサンじゃないですか…。
高校生にエスコートさせないでくださいよ… 」
「 あのねぇ、ユタク君──、オバサンじゃなくて、お姉さんだからね!
未だ独身なんだから!
それに、お姉さんの外見年齢は20代よ! 」
「 …………有明古さんが実年齢より若く見えるのって、鬼狐の所為なんですよね? 」
「 所為じゃないわね。
お蔭よ、お・か・げ♥
60になっても、80になっても、100歳を過ぎてもアタシの外見は20歳な・の♥
今はユタク君とは3歳しか違わないのよ! 」
「 ……実際は23歳差なのに… 」
「 ふっふ〜ん!
ユタク君の方が、先にオジサンになっちゃうわねぇ 」
「 むぅ…… 」
「 まぁ…冗談は止すとして、良かったんじゃないの?
ユタク君を苛めてた犯罪者が1度に5人も死んでくれたのよ。
これからは羽を伸ばして暮らせるじゃないの 」
「 …………それは…そうですけど…… 」
「 ユタク君、もしかして彼等を可哀想だとか不憫だとか思って同情してるの? 」
「 …………してませんよ、別に…。
ただ…家族は悲しむだろうな──って思いますよ。
サユタ達を殺した犯人は不明のままだし…。
どうしてサユタ達が夜中に旅館を抜け出して、墓場に行ったのかも分かってないし…。
旅館の玄関には鍵が掛かっていたから外には出られません。
靴も棚に置きっぱなしだったし… 」
「 窓から旅館の外に出たんじゃないか──って言われてるじゃない 」
「 旅館の窓から外に出るなんて無理ですよ。
刑事さん達がサユタ達が宿泊していた部屋を見に来て色々と調べてましたけど、『 外に出るのは無理だな 』って言って、残念がってましたよ。
サユタ達が宿泊したのは、2階にある見晴らしの良い部屋なんです。
部屋の下は錦鯉が泳いでる池になっているんです。
池は浅いですから、誤って落ちたら水死しますよ。
それに…外に出るなら使われた筈の縄梯子とかロープとかも無かったんです。
布団を入れてるシーツ類をロープ代わりに使われた形跡も無かったですし…。
何も使わないで1階の庭に降りるなんて出来ませんよ。
仮に窓から庭へ降りれたとしても、門にも鍵が掛けられてます。
門を開けて旅館外に出るなんて出来ません。
塀は高いですから、長い脚立や長い梯子を使わないと出られません。
だけど、塀には脚立も梯子もありませんでした。
第一、宿泊客に脚立や梯子の貸し出しなんてしてませんし… 」
「 ふぅん…。
玄関から旅館を出る事は出来ないし、窓から庭へ出る事も出来ないし、庭から旅館外へも出られない。
人為的に5人の男子高校生が墓場に行くのは不可能──って事なのね 」
「 そうですね… 」