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さすがに美少女いたら人生逆転するけどね。  作者: 四万十川ジェームズ
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プロローグⅡ

「あーーー!クソっ!!!」

深夜の住宅街。荒げた声が響く。


声の持ち主は机に突っ伏して頭をかきむしる。

目の下には黒いクマ。枯れた声にやつれたほほ。細くなった髪の毛。かなりお疲れの様子だ。

年下女子が見ればその必死な姿にパブロンを差し出しながらジュン…となる姿。

無精ひげをジョリジョリと鳴らしながら机にしがみついている男。そう俺です。


「ダメだ…決定打が…有馬記念の決定打が見当たらねえ…」


ボーナスが溶けたあの日から研究と称した予想に没頭し様々なデータを駆使した。

「なんつーかさ。あの頃はポン!ってハマるような感じがあったんだよなあ…。」

学生時代を思い出す。

競馬には様々な要素がある。例えば展開、例えば馬の能力、騎手、枠、コース適正、パドック、血統…。

その答えは大体こうだ。「俺は血統」「俺は騎手だな」などなど。

わかる。わかるぜ。その一つ一つはどれも重要な要素だ。

だが、競馬とはその複数のものが絡み合った先に結果がある。

その一つだけを都合よくピックアップする行為は予想ではない。「願望なのだ」。

年齢、枠順、脚質。グランプリレースと言われる有馬記念。傾向は大きく偏る。

それらのデータの上で怪物が天才を打倒してきたのがこの舞台。

「となるとやはりここは能力のあるサトノが…」言いかけてやめる。

そうこれでは先ほど言った「ただの願望だ…。」


競馬というのはざっくりというと【能力±外的要素(コース・枠・調子など)】で計算される。

しかし外的要因は広い府中と小回り中山で与える影響が異なる。

どのコースがどれだけ外的影響を与えることができるのか。そこさえデータ化してしまえばなんとも高度な計算式が出来上がるではないか。

「今日の馬場レベルは+3.14…つまりここにこの数字を入力し…よし!」

という形にな。その計算式の算術に机にしがみついている。


「あーーーーー!!!!!!!!!!もうダメだ!!!!エネルギー切れ!!!!!」


目の前にあるコカコーラーを一気飲みしコンビニへと歩く。

すっかりおなじみになったタバコに火をつけファミチキを貪る。

しかし頭の中はもう計算式のことしかない。街灯がポツリポツリと並ぶ街をみて思い出す。


学生のころは競馬のことばかりだった。

ネット掲示板で知り合った仲間と毎日メールをして競馬の話。


「あの頃は仲間もいたんだな…」


ため息。


「…あの頃………」


ふと思い出した。学生の頃。大学院の時。

競馬の話をしていた人間が一人いたことを。彼も理論的馬券の使い手だった。

卒業してから疎遠になっていた。

「あいつ何してんだろ…。まだ競馬やってるかなあ。」

つぶやいた時には携帯を握りしめていた。


プルヌヌヌ

プルヌヌヌ…

「…もしもし?」

「お…えと…オノくん?」

「ああ!ヨシダ!久しぶりだな!どうした!」

ずいぶんと快活になってるオノに戸惑う。どうしたも特に理由はなく思い立っただけだ。

「え…いや…元気か?」

「まあ忙しいけどな!ヨシダはどう?」

う~ん何とも久しぶりの知人同士の話っぽいではないか。ほんの二言三言会話をかわして本題に入る。


「あ…あのさ。オノくんまだ…競馬やってる?」

ただの会話だ。だが震える。もし…もし「は?wお前まだそんなことしてんの?www」とかいう返事が来ればきっと俺はまた閉じこもってしまう。また周囲に置いて行かれたあのショックに飲み込まれてしまう。ただの会話だ。だがトラウマと深い傷を負った俺のハートを崩壊させるには十分なのだ。

そして小野から声がする。


「…ああwめっちゃ負けてるわwwwwwwwww!」


頬を何かが伝った。不意に涙が出た。

安堵か。懐かしさか。わからないが涙が出た。

久しぶりに仲間と再会した時。こうなっているのだろうか。


オノはまだ結婚はしていないようで都内で企業勤めしているとのこと。それもそうだろう。彼は院時代からハゲていた。そして渾身の一言を見舞う。

「12月22日金曜日。仕事終わりに一杯やらないか?」


オノは簡単に承諾してくれた。本題は直接会って話そう。一人では出来上がらない計算式なら2人で作ればよい。三本の矢だ。三人集まればもんじゅの知恵だ。

この再会が人生の転機となる。そんなことをまだ誰も知る由がなかった。

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[良い点] 吉田、続きたのむわ [気になる点] 完全な私小説である点
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