帝都
移動はいわゆる馬車での移動だった。感想はとにかくお尻が痛かった。全自動の自動車や電車は振動はゼロでソファーはフカフカ。
馬車をなんとかしようと考えた結果、理由は馬車ではなく道の方だった。
偉くなったらアスファルトのみちに統一しようと心に誓ったのだった。
この世界にアスファルトがあるのかを馬車の運転手の老人に聞いたり、あと7時間かかると言われ軽く絶望したりと色々あったが無事魔術学園のある帝都、イースリアに到着したのは日が沈むかという頃だった。
イースリアは帝国一の町と言うのに遜色ない城下町だった。町は活気にあふれていて商店街も日が暮れるというのに人であふれていた。建築様式や技術体系に差は確かにあるが此方の世界の人や町は前の世界のそれと同じだと思っていた。あるものを見るまでは。
異世界ではありがちな、そして前世の世界でも昔は使われていた制度。そして帝国の占領地でまた復活していると風の噂で聞いた悪しき権力の象徴。そう奴隷の存在である。
『リリィさん。奴隷ってこのせいでは当たり前なの?』
今回の入学にあたり魔術に長けた監督役として同行しているリリィに勇者は尋ねた。
質問されたリリィはというと質問に奴隷の存在への怒りを感じとり少し関心しながら帝国の、そして人族のありのままの現状を答えた。
『そうですね。犯罪を犯した者などを奴隷として労働力とする国は帝国以外にも多数あります。しかし勇者様が嫌悪感を抱いている奴隷制度を採用している国は、、帝国だけです。』
見かけた奴隷は荷物持ちをしている者が大半であるが、共通して首に枷がついていた。枷がついている人が奴隷であるとしてあたりの人を見ると、娼館で客引きをしている綺麗な女性や、店先で商品をお客さんに渡している少年、荷物を片手に家路についている男や女、首に枷があるなんて想像もしていなかったためだろうか、それを一度認識すると枷をつけたものが数多く存在していることがわかった。
あたりを見て怒りを隠しきれずにいる自分を見かねたのかリリィは言葉を続けた。
『勇者様の想像している人達は確かにいますが、食うに困り奴隷階級の人が無料で使用できる帝国運営の宿や配給の食事目当てで自分から奴隷となるものもいますので奴隷全員が虐げられているわけではありませんよ。宿や配給をもらうには週5日の労働を帝国から課せられますが。』
リリィの話を聞き、勇者は少し考えてを改めよとして、リリィの方を向くと、リリィはひどく冷たい目をしていた。
それから少し沈黙が続き、あてもなく馬車の中なら街の様子を眺めていると馬車が止まった。
『到着いたしました。』
運転手の声を聞き外の建物を指し、ここが魔術学園だと自分に教えてくれているリリィの表情には先ほどの冷たいものはなくなっていた。
勇者も奴隷のことやリリィのことがきになってはいるものの、図らずもまたやってきた学園生活に胸をときめかせながら馬車を降り、建物に向かっていった。