第80話 エピローグ
俺は高校に通うことになった。
小太郎達が偽装工作を進めてくれたおかげだ。
モラトリアムを体感できてよかったと思っている。
ただ、輝夜とくっついていると、いつか刺されそうな気がするのが問題だ。
なんとかして俺が有能であることを示さないと。
いや、なぜか敷島姓は持ってるから、実家の力を考えればいらないと言う話もある。
輝夜とは婚約者ということで話を通してあるしな。
この瞬間を何百年待ったと思っているんだ。
俺と輝夜のイチャイチャは止めさせやしない。
それはそれとして勉強も頑張ろうと思う。
ミトとルナは後輩のアイドル生徒だ。一般にも認知されてる。アイドル活動のせいで学校は休みがちだけど、そんな人間は掃いて捨てるほどいる学校なので誰も気に留めてない。
そういう学校なのだ。多分アイドル事業のために作ったな。
ミトがひいおじいちゃんと言って懐いてくるし、ルナもお父さんとか言って抱きついてくるので困った。
これなんてエロゲ?
ひいおじいちゃんは新しすぎる。
そして、普通に間違っていないから呼び方を訂正するのも難しい。
せっかく人間の姿になれたんだから、ちゃんと可愛がりたい。
しばらくしたら、俺の変な噂が尾ひれをついて広まったようだ。
殺し屋だったとか信ぴょう性のない噂だ。
いや、人殺ししたことは多分ないです。人助けなら無限にしたけど。
いやでもリーフインジェクションで倒したこともあるのか。
そういうわけで曖昧に笑っていたら、肯定したととられたらしい。
一層強固な噂になった。
ミトのひいおじいちゃんって呼び方はなんて説明してるんだろうか。
割と興味がある。
明は今も、敷島の影の支配者として大忙しだ。
でも、食卓にはいるから嬉しい。
彼女が子供だった時もあったんだよなと遠い目をしてしまう。
頑張ってるなって撫でておいた。
明はとても嬉しそうだ。
俺も人の手で撫でられてよかったと思う。
愛は、諜報活動の他に、アイドル業務を一手に引き受けてやっぱり大忙しだ。
最初から最後まで苦労をかけ続けてしまった気がする。
感謝を示さないとな。
贈り物を持って行ったら、その気持ちだけで十分ですと微笑まれてしまった。
お礼したりないんだが。
小太郎はそろそろ会社の表の顔を引退するらしい。
そりゃ長年努めてきたからな。流石に怪しまれる頃合いだろう。
紅毛碧眼なのに怪しまれなかったのは、やっぱり実績があったかららしい。
この世界では、利益を出せる会社が正義だ。
敷島は資本金こそ出どころは怪しいが、それ以外ではちゃんと利益を出している。
資本金のことに突っ込まれなければ勝てる。
立ち上げも戦後まもなくの混乱期なので、国の調査もあまり入っていない。
完璧だ。
あとは引き継ぎだけだ。
白が後を継ぐらしい。
真面目な仕事ぶりを評価してということだった。
うん。白なら安心だ。
白髪なのは、敷島の伝統ということで一つ。
銀孤と将門はぷらぷらしている。
大企業のバックアップもあって、妖怪とバレることもない。
もともとは俺の役割だった庇護の役目を敷島にさせているのは少し複雑だ。
時代のせいだから仕方ない。
そういうわけで、二人は、ふらっと来ては敷島の仕事を手伝い、またふらっといなくなる生活をしている。
どうも妖怪の調停役をしているようだ。
まあ、目的も果たして暇になったし、それくらいはいいだろう。
いつの間にか妖怪大戦争に巻き込まれてて、俺たちみんなで戦う羽目になったことは忘れておこう。
俺も地味に戦えて驚いた。
技能「木接続」の効果範囲って大和杉だけじゃなかったみたいだ。
そこらへんに生えている木から情報を読み取ったり、力を引き出したりできる。
いや、もちろん、戦いが終わったら戻してるよ。
お腹が空くのは嫌だもんな。
頑張ってエネルギーを補給してそのエネルギーを木に渡す。
この技能だけで樹木医になれそうだ。
そんなこんなで、楽しく生きて行けそうである。
カヤノヒメとイワスヒメは良い友達に戻ったようだ。
大和杉の上で語り合っているのを時々目にする。
結局一度もイワスヒメとは直接話してないんだよなあ。
土に加護を授けてくれたことを感謝しに行きたい。
今度神様に会わせてくれるように頼んでみよう。
●
日本に巨大な木がある。
ファンタジー文脈では世界樹と考えてもいいほどの大きさだ。
世界中の植物学者が躍起になってその生態を探った。
結論は、なんの変哲もない、杉だった。
DNA鑑定をしてもただの Cryptomeria japonicaでそれ以上でもそれ以下でもない。
ただ行った適応と、育った場所と、そして運がとんでもなくよかった。
それが彼らが出した結論だった。
東京という、何度も火事に見舞われた場所。
だが、雨が降ったり、焼夷弾を運ぶ飛行機が墜落したりといった偶然によってその木は火事の被害を受けなかった。
地震も台風も、独特の揺れで威力を減衰させている。
何者かが杉の背後にいるのだという陰謀論を唱える人もいたが、黙殺された。
どこの世界に植物を育てるためだけの秘密結社が存在するというのだろうか。
ありえない。
ただ一つだけ確かなのは、その杉が世界に冠たる巨木であるということ。
それだけだ。
杉は天へ伸び、影は地面を覆う。
杉は信仰され、親しまれ、愛される。
地球が滅びるその時まで、この場所に根をおろし続けるだろう。
応援ありがとうございました!
書き続けていられたのは、読者のみなさんのおかげです。
感想もブクマも評価も、とても嬉しかったです。
みなさんがまたいい作品に出会えますように。
その作品の作者が私なら望外の喜びです。




