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目指せ樹高634m! 〜杉に転生した俺は歴史を眺めて育つ〜  作者: 石化
現代

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第76話 妖怪1足りない

 

  輝夜の引退は惜しまれながらも、粛々と済んだようだ。トラブルがなくてよかった。

 リーマンショックで輸出業界は不況だったが、敷島の事業に大きな問題は発生しなかった。


 アイドル部門もまだまだ続けていくらしい。


 大企業になったら、どこを向いていいかわからなくなるって聞いたけど、こういうことか。


 結局敷島って何会社なんだろうか。


 製薬とアイドル事業をやってるのはわかった。

 他にも教育とか不動産とか工業系統とか、色々やっているみたいだ。


 複合企業って何がしたいかよくわからなくなるよな。


 それほど体力があるということなんだろうけど。



 なんか新型インフルエンザが流行してたけど、すぐに特効薬を開発していた。


 ミトというチート技能持ちがいるから、製薬の場面では負けるはずがない。


 ミト自身で量産してもいいし、その成分分析を行って量産してもいいからな。


 簡単に世の中の需要に対応できたら、そりゃ成長するに決まってる。



 明も有能だし。


 でも、あれだな。ずっと小太郎がトップを張ってるのは流石にまずいんじゃないだろうか。


 老いを感じさせないからな。


 今何歳の設定なんだろうか。50才くらいかな。うん。どう考えても怪しい。



 小太郎にどうするつもりなのか聞いてみた。


 引退して、次代の人物として登録するらしい。


 このために教育部門を抑えたんですよと笑っていた。


 なるほど。考えている。


 いや、でも日本の戸籍制度ってそんなにガバガバなんだろうか。


「いざとなれば権力で揉み消せますよ。」


 ということらしい。大企業すごい。


 これなら俺が人間に戻っても大丈夫だろう。



 安心できる。


 そういえば、ついにスカイツリーの建設が始まったみたいだ。基礎部分が作られ始めた。

 

 世界遺産になった副次効果で、そんなに近くない。

 景観を損なうから作り始めるには大きなハードルがあったんだろうと思う。

 歴史の強制力さんが頑張ったんだろう。たぶん。



 スカイツリーはどんどん組み上がっていく。


 2010年。511mに達してしまった。


 2011年。スカイツリー615m。


 東日本大震災が発生したが、俺もスカイツリーも被害はなかった。


 スカイツリーは俺と同じように揺れていた。どちらも五重塔構造を応用したせいだろうか。


 なんだかおかしかった。


 3月18日 13時34分。スカイツリーが634mの高さになった。


 俺を見下ろしている。


 そりゃそうか。開業前に完成してなきゃおかしいもんな。


 神様の勝負は2012年だ。それまでに追いつけばいいだけだ。


 あと、九ヶ月。



 俺は最後の追い込みをかけていた。


 輝夜への返事も最小限で、みんなが来てもそこまで喋れなくなった。


 エネルギーを全て樹高に回す。あと1mちょっとなんだ。それくらい超えられるさ。




 なんだか昔を思い出す。


 まだ、俺一人で、ただ周りを眺めながら成長していった頃のことを。


 目的は明確で、そのまま伸びていくだけだった。



 今はみんながいて、みんなのおかげでここまでこれた。


 戦国、江戸、東京大空襲に原爆、大怪獣に隕石落下。

 俺一人では対処できなかっただろう。


 寂しさに耐えかねて作り出したみんなだけど、今では掛け替えのない存在だ。



 ⋯⋯恥ずかしいからここまでにしておこう。



 感動的な話なんて似合いはしない。


 あとはハッピーエンドに至るだけだ。


 めちゃくちゃフラグっぽい雰囲気あるけど、気のせいだよね。


 なんか変な予感がしてる。


 いやいや、ここでのどんでん返しなんて誰も望んじゃいないんだよ。



 俺ならいける。そう信じるだけだ。




 来たる12月31日。


 俺の樹高は633mだった。


 1m足りない。


 いやいやいや。勝利フラグ出てたじゃん。なんでその肝心なところができてないんだよ。


 一番最初から目指せ634mと言ってるわけじゃん? 努力目標だけど、目標に到達できないのは流石におかしいでしょ。


 しかし、何度機能ウィンドウ見返しても、樹高は633mだ。


 上の方を見ても、ほんの少しだが、間違いなく、こちらが負けているのがわかる。



 嘘だろ。


 流石にもう伸ばせない。



 いや、2012年が一月一日というわけでもないだろう。もしかしたら本当にスカイツリー開業日の話かもしれない。


 俺はそう信じて希望を繋ごうとした。



 夜になった。


 俺の中から扉が開く。



 長い藍色の髪に豪華な花飾り、着物は着流しでゆらゆらと揺れ、帯の結びは複雑怪奇な美しさ。総じて優美という言葉が似合う美人だ。ただ、目つきはやっぱり悪い。


 知ってた。そりゃそうだ。この節目は一月一日だよなあ。泣きそう。


 どうにかこうにか、手段はないのだろうか。


「おう、お前。よく育ったな。」


 カヤノヒメは俺の勝利を疑っていないようでご機嫌だった。



 俺は罪悪感を覚えた。


 正直出来レースを疑っていたほど、今回の勝負は俺にとって整えられていた。


 4000年前からひたすらここまで準備を整えることができた。


 普通なら、絶対に勝てただろう。


 だが、俺は。


 脳裏に蘇る、無駄な行動。


 樹液生成に、細胞操作による可愛がり。


 どう考えても必要なかった。


 せっかく与えてもらった条件をフル活用できず、負けてしまう。



 それは流石の神様も許してはくれないだろう。


 俺が人間に戻る可能性はゼロになった。後悔と絶望しかない。



 俺がそんな風に考えていることには気づかずに、神様は口を開いた。


「ちょっと早いが、お前が人間に戻れるようにしてやる。」


 彼女は俺の樹皮に触れ、力を流した。


 ピコン。音が鳴った。


 機能ウィンドウを開く。



 何を強化しますか


 →耐火性

 樹高

 幹周り

 強度

 しなやかさ

 葉の数

 葉の鋭さ

 葉の射出

 根

 森人生成

 ー派生アバター生成”NEW"

 樹液生成

 細胞操作

 放射線吸収服生成 


 *光合成効率を変える際はここを押すこと。今の属性は陽です。


 どこを強化しますか


 →1〜100m


 101〜200m


 201〜300m


 301〜400m


 400〜500m


 500m〜600m


 600m〜


 樹高633m


 ⋯⋯神様。


 俺は言葉を失った。


 木にされたことを恨んだこともあった。


 でも、この生活は楽しかった。


 みんなとも出会えた。


 俺のおかげで変わった歴史がある。


 それは、俺に謎の自信を与えてくれた。


 だから、感謝とは言わないまでも、嫌いにはなれない。



 そして、俺を信用して、最後の力を授けてくれた。


 なら、彼女を助けたいと思うのは不自然だろうか。


 俺の力で、あと1mを埋める。そんな方策がどこかにないだろうか。









この妖怪には何度も苦しめられました。

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