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目指せ樹高634m! 〜杉に転生した俺は歴史を眺めて育つ〜  作者: 石化
現代

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第74話 過去編(現在進行形)

 

 輝夜がそれに気づいたのは偶然だった。


 なんだか、恋しい人と同じ雰囲気が下の見物客の中からしたのだ。


 気のせいで済ますにはありえないほどの一致である。



 彼女は、ちょっと出かけると言い残して下に降りていった。


 ルナは大和杉と顔を見合わせる。大和杉の方に関して言えば比喩だ。

 なんだったのか、二人とも理解していなかった。

 ただ一つわかっていたのは悪いことではないということだけだった。


 輝夜はふわりと地面に降り立つ。


 忍術を使えば気配を感じさせることもなく着地することなど造作もない。


 敷島が、中継点となるビルを保有していることも功を奏している。


 うまく観光客に紛れることができた。


 先ほど感じた気配は、外へ移動しているようだ。


 彼女は気配を極限まで落とした。


 技能「諜報」の応用範囲は広い。


 こうでもしないと大騒ぎになることは目に見えていた。輝夜はそれほどまでに美しい。


 観光客の頭を踏んで追いかける。



 追いついた。


 それは学生服を着た中学生の集団だった。


 その中にいる一人の平凡な容姿の男の子。


 輝夜はその男に目を惹きつけられていた。


 誰なのかはわからない。でも、愛するものと同じ雰囲気を持っていることだけは確かだった。


 彼女は声をかけようと一歩前に出る。


 しかし、その集団はバスに乗り込み、離れていった。


 彼女の伸ばした手が気づかれることはなかった。



 輝夜はめげなかった。


 技能「諜報」を応用し、先ほどの中学の情報を集める。


 思っていた通り修学旅行でここに来たようだ。


 そして、明日は自由行動。見張っていればいくらでもチャンスはある。


 輝夜は希望を繋いだ。



 あくる日。


 ホテルから出てきた彼を輝夜は観察していた。立派なストーカーである。

 技能「諜報」を悪用しないでほしい。


 友達と過ごそうとするものが多い中、彼は一人、ぼうっとしていた。


 だが、友達がいないわけではないらしい。

 出て行く学生に声をかけられることも決して少なくはなかった。


 では、なぜ彼は一人なのだろうか。


 答えはすぐにわかった。


 彼の口元に笑みが浮かんでいる。


 彼は楽しそうなのだ。まるで一人でも、何も痛痒を感じないかのように。


 しばらくしてどこに行くか決めたらしい。彼は一人で歩き出した。


 行き先は駒込だった。


 六義園に入って行く。


 修学旅行だというのに、全く学生らしくない。


 それでも、彼はやっぱり楽しそうだ。


 自分の中の基準がしっかりと確立しているようだった。


 ゆったりと歩きながら木々を見る。好きなようだった。



 立ち止まっては見上げている。


 ここ六義園は、江戸時代の庭園がそのまま残されている。


 美しい水と橋と木の調和の取れた光景。


 彼はほうと息を吐いては、見とれていた。


 輝夜は、なんども声をかけようとした。


 でも、彼の満足そうな顔を見ていると、どうでもよくなってくる。


 彼女はただ黙って、彼のあとをついていった。


 どういうところに感動しているのかは記憶する。


 多分愛する人も同じだろうから。




 そして彼は最後の締めとして、昨日行ったはずの大和杉の元に向かうのだった。



 もちろん輝夜もついていく。


 大和杉は夕焼けの中にあって、荘厳でどっしりとした表情でそびえていた。


 悠久の時を過ごしてきた木肌はゴツゴツとして生命力に溢れ、見るものを魅了する。


 それを彼は飽きるほどに見つめていた。


 彼はほとんど言葉を出さない。一人なのだから当然かもしれない。


 でも、輝夜には、今の彼の中で、色々な言葉が生まれては消えて行くのがわかった。


 それは、高尚なことも感動したことも低俗なことも退屈なことも全てを内包した言葉に違いない。



 それでこそ、彼女の愛する人なのだから。


 彼は、踵を返した。

 そろそろ自由行動の終了時間なのだろう。

 心行くまで堪能したと、その表情が言っていた。


 輝夜は少しだけ、諜報による気配遮断を解いた。


 彼の正面に立って、一言。


「ありがとう。」


 生まれてきてくれて。ここにきてくれて。そのままのあなたでいてくれて。


 その思いは多分、首を傾げる彼には伝わっていないだろうけれど。


 輝夜はそれで満足だった。


 時間が経つ。

 ざわめきが起こり始める。

 少年の顔が真っ赤に染まる。


 絶世の美少女の存在に、世界が気付き始めていた。


「じゃあね。」


 それだけ言って、彼女は駆け出す。


 その姿は東京の人混みの中に紛れていった。


 最後まで、彼はぼうっとしていた。


 大和杉の前世の運命は、もう変わっている。


 ただ、輝夜の美貌がそれを狂わせないかだけが懸念事項になってしまった。



 ●



 帰ってきた輝夜の機嫌がやけに良い。


「あなたが人間に戻ったら、一緒に行きたいところができたの。」


 そんなことを言ってくる。


「どこなんだ?」


「秘密。」


 可愛く言って、唇に指を当てた。


 それはずるい。


 何があったのか教えて欲しいけど、多分言わないんだろうなってわかっていた。



 俺の下で、輝夜が何もない空間に向かってありがとうって言っていたけど、それが関係あるのかな。


 でも、あれおかしいよな。


 明らかに不自然に空間が空いていた気がする。



 誰かいたのだろうか。



違いに認識できないようにすることでタイムパラドックスの発生を未然に阻止する世界さん賢い。

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