第72話 恐怖の大王 破
ただの危機感だったんだけど、本当に恐怖の大王が降ってくるとはな。
ミトは小さいのにすごいな。いや、もう中学生くらいになったのだろうか。
制服着てるし、そうなんだろう。
もうそろそろ大人だ。
成長を喜んでおこう。
そして、詳しい話を聞いた。彗星がやってくるらしい。
そんな話は聞いたことがなかった。
やっぱり、少し歴史が違っているのだろう。ルナも襲来したしな。
とりあえず、 NAS○は正確な彗星の軌道情報を持っているらしい。
攻撃を仕掛けた後にどうなるかが問題だな。
破片が降ってこないとも限らない。いや、流石にその可能性は低いと信じたいが。
軌道計算とかはしっかりやっているだろう。
とはいえ不安だ。迎撃か⋯⋯。
ルナがいればいい説はある。彼女の技能「レーザービーム」と「自動迎撃レーダー」は優秀すぎる。こういう時には役に立つ。もし今後第三次世界大戦があってもいけるんじゃないだろうかと言えるレベルだ。
後は輝夜かな。技能「射撃上級」なら龍の首の珠を使っても命中するだろう。
蓬莱の玉の枝は、流石に威力不足な気がする。あれ、見た目は派手だけど、散弾みたいなものだからな。
大きな破片が落下すると考えれば、威力はあったほうがいい。
じゃあ、白を呼ぶ必要はないか。
せっかくミトが自分で見つけてくれた情報なんだし、大人たちには内緒にしてあげよう。
最後まで自分たちの力で成し遂げることは彼女たちの力になるはずだ。
というわけで、基本的にルナに任せる。輝夜は撃ち漏らした奴を頼む。
そういうことにした。
●
夜中、ミトはこっそり家を抜け出す。
書き置きだけはちゃんとしておいた。
心配をかけるわけにはいかない。
夜空にはくっきりと彗星が見える。
ひどく大きい。月と同じくらいに明るく見える。
彗星が白い尾を引いて夜空を走っている。
それはとても幻想的で美しい光景だった。
ニュースは素晴らしい天体ショーだと騒ぎ立てるばかり。
ネットには不安を煽る書き込みもあったものの、大多数の人は政府の何事もなく通過するという発表を信じていた。
天体望遠鏡で観測する人も多く、1999年という年にふさわしい現象だと、盛り上がりを見せている。
今日は、各国が彗星を攻撃することで合意した日だ。
原子爆弾は、地上への影響が大きく使用しないと決められていたため、ミサイルが大本命である。
一発では無理でも、二、三発打ち込めば大丈夫だろうという試算結果だった。
彗星の構成物質は核以外はほとんどが水素などのガスだ。
核さえ破壊してしまえば、被害はほとんどないと言ってもいい。
軌道計算は正確だった。
NAS○はすでに月面着陸を成功させている。
むしろこの程度の計算で間違うわけがない。
問題があるとすればミサイルの方だった。
衛星軌道上まで届くミサイルはギリギリ開発が済んでいた。
しかし、もっと上部まで射程に入っていないと、地球上への被害が出る可能性がある。
技術開発が必死に進められた。その甲斐あって、さらに上空まで飛ぶというミサイルが出来上がる。
試験をしている暇はなかったので、今回の投入が初であった。
放置していた場合の予測落下地点はニューヨーク真っ只中。国家の威信をかけて、撃ち漏らすわけにはいかなかった。
失敗した場合も考えて、二段構えである。
もともとあった衛星破壊ミサイルは何回か運用し、信頼できるものであった。
それが最終防衛線だった。
地上発射型に航空機発射型。
何重にも備えはしている。
他の国家も、アメリカが撃ち漏らした場合に備えて、それぞれデータを共有している。
恐竜絶滅にも比肩すると言う彗星落下に対して備えは万全であった。
そして、大和杉樹上。
輝夜、ミト、ルナは空を見上げていた。
都会の真っ只中にあって、もっとも空に近い場所、それが大和杉の上だ。
当然、近づく彗星の姿ははっきりと見えた。
間も無く、アメリカの攻撃が彗星に着弾する。
三人と一本は固唾を飲んで見ていた。
彗星の光が揺れた。
激しい揺れと共に、光が明滅する。
だが、光はそのまま軌道を変えない。
急いでミトが調べると、新型のミサイルは一本しか命中しなかったようだ。
やはり急造品では無理があったのだろう。
彗星が近づき、その光はさらに明るくなってくる。
第二射の用意が行われているようだ。
軌道計算の修正が大急ぎで行われている。
それを大和杉の上から逐一把握するミト。
さすがは全員の才能を受け継いだ娘だ。
この歳で、諜報活動一つをとっても一級品である。
タメを張れるのは輝夜くらいだろう。
軌道計算が終わったようだ。第二射が発射される。
タイムラグがある。
ミサイルの速度は圧倒的だが、如何せん距離が長い。
宇宙空間は無駄に広くて大きいのだ。
それでもほどなくして着弾した。今度は彗星の光がなんども揺れている。
これで破壊できなかったら終わりだから、アメリカも必死だろう。
彗星の明かりが細切れになった。
破壊はできたようだ。
ミトが確認する。
「いくつかの小片に別れたみたい。一番大きいのは逸れたけど、破片は別の方へ降り注ぐって。その一つは⋯⋯東京?!」
まあ、こんなこともあろうかと準備しておいたんだ。迎撃するぞ。
異常事態にも俺は慣れたものだった。
20世紀最後だ。派手にやろうじゃないか。
俺はやらないけど。
ルナと輝夜。任せたからな。
二人はコクリと頷いた。




